楽園

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梗 概

楽園

世界規模で隆盛を極めたゲーム産業の勢いは、意外な形で影を落とすことになる。

 アメリカ精神医学会によるゲーム依存症の正式な疾病への認定
  二階堂リリ主導によるゲーム規制を巡るサイバーテロ勃発
  電子ドラッグ取締法(ECL)施行

射幸性に頼った収益モデルに依存してきた各社は、事業の再編と転換を迫られ、
ゲームはゲームであるがゆえに世間の指弾を浴びることとなっていく。

そうして、ゲーム文化は表舞台から徐々に姿を消していった。

そこから50年。
電子ドラッグ取締局(EDEA)の検閲を逃れるため、ナノマシンを介さずソフトウェアのインストール、
起動が可能な古風なハードデバイスを利用したゲームが、再び脚光を浴び始めている。


EDEAに務める私は、妻と娘から逃げるように電子ドラッグの実地調査に向かっている。
社内では立候補する者など滅多にいない貧乏くじだが、頭を冷やすには丁度いい。
最近配属された新人・坂ノ下を連れ、向かうは熱海。ゲーム好きや二次元ギークたちの根城である。

現地に着いて間もなく出会った少女は、かつて私が片思いをしていた二階堂カナコに瓜二つだった。
少女を追い、現地民でなければ到底辿り着けない道を進む。薄暗く煤臭く、喧騒と笑いと熱が交差する奇妙な空間。
そこでは、その場に集ってゲームの腕を競う大規模な大会が行われている。

夢中になっている坂ノ下を置いて、私はさらに奥へと進む。
行き着いた先の旅籠には、テロの実行犯である二階堂リリが待っている。

リリのベッド脇にあるブラウン管テレビで、私は一本のゲームをプレイする。

不器用なドットで描かれたキャラクターは、妻と娘と私だ。
私はブラウン管の中の私を操作し、私自身の人生を回顧してゆく。それはかつての記憶の再生であり再生生である。
苦い青春時代。ダサいと言われながらデバイスを使った旧型ゲームに没頭する日々。
妻との出会い。喧嘩をして出て行った彼女を海外まで探しに行ったこと。スルジ山から眺めた夜景。娘が生まれた日。
妻が微笑んでいる。私もつられて笑っている。一緒に歩くだけで幸せだったあの頃。

ここは小さくて狭くて汚くて、でもあらゆる人間の感情が溢れている場所。
ゲームには、人の感情を揺さぶる力がある。世界観や価値観を変える力だってある。
お金と搾取に塗れたあなたには理解できないかもしれないけど…。

大会を観戦していた坂ノ下を引っぺがし、建物を後にする。
「その場にいないとわからない熱ってあるんですね。少しだけ胸が熱くなりました」

建物の入り口には、看板が掲げられている。
汚れて傾いた看板には消えかかった文字で「楽園」と書かれている。

家に帰り、しばらく見なかった妻と娘の顔を見て、涙を流す。

数日後、退職届を提出する。

掃除中、学生時代にカナコと一緒に作成したゲームの企画書を見つける。
ライターで火を付けると、たちまち仕様書は煤となり、カナコとの思い出は全て消えて無くなった。

文字数:1197

内容に関するアピール

パチンコが日本に普及してからおおよそ90年。国民的娯楽と謳われた90年前と比べて、その立ち位置は大きく変わりました。
はたして、ゲームの未来はどうなるのだろう?

初回は、自分の畑でもあるゲームと、現状のゲーム業界(主に日本)に対しての思いを多少織り交ぜつつ、梗概を作ってみました。
字数制限に気づかず、ぎりぎりになって大量に文章を消していったら、とても箇条書きっぽい梗概になってしまいました。
梗概の読みづらさは、次回の改善点とさせていただきます。

ここをスタートとし、一年間でどんな変化があるのか、自分でも楽しみです。
どうぞよろしくお願いいたします。

文字数:271

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