彷徨う意識

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梗 概

彷徨う意識

 深見スグルは深い眠りについた。そして自分の脳から意識を離脱させた。
 
 2119年の日本では人の脳内の意識を電子データ化することに成功していた。
意識をデータ化することができる装置(ナイトキャップのような物)を製品化していた。
それから人口脳というものも作り出した。脳内のニューロンを人工的に作ったもので人工知能とは違う。
この人口脳はいろいろな機器に搭載された。その機器は家電が多かった。洗濯機や冷蔵庫や掃除機など。ほとんどの家電がネットに繋がっている。人々は自分の意識データをネットに流して人口脳を搭載している家電にダウンロードして家電になった気分を楽しんでいた。
 
 スグルは恋人のアヤカから意識データ化装置をプレゼントされた。

 意識のデータ化は深い眠りに落ちているときだけ可能で24時間以内という制限があった。24時間を超えると自分の脳に意識データを戻すことができなくなってしまう。理由は分からなかった。おそらく生体脳を意識カラッポ状態にしておくと24時間で死んでしまうのではないか、と一部の開発者は言っている。

 深見スグルはその夜は洗濯機になった気分を味わった。
 その次の夜は掃除機の気持ちを味わった。
 その次の夜は冷蔵庫になってみた。
 それほど面白いとは思わなかった。

 日本の人口は一億を割り少子高齢化が進み医療技術の進歩により寿命はのびている。
意識データ化をして遊んでいるのはほとんどが高齢者だった。深見スグルは数少ない若者だった。
しかし、仕事はしていなかった。ほとんどの仕事はAIが担っている。ベーシックインカムが導入されているのでスグルは生活に困ることはなかった。
 意識データは人口脳だけでなく生体脳にもダウンロードできる。つまり他人の心の中に入ることができた。しかし、その行為は法律で禁止されていた。
 社会問題が発生していた。意識データ化の時間制限をオーバーして自分の大脳に帰れなくなる人が続出して、大量の意識データがネット上を彷徨い続けている。
 
 アヤカが意識データ化の制限時間をオーバーして帰ってこられなくなった。
アヤカの意識はネットの何処かで彷徨っている。ネットを流れている意識データを削除することはできない。アヤカの意識はネットの何処かに必ずいる。スグルはアヤカの意識データを探しだして、自分の意識データと融合させて、自分の脳に戻りたかった。

 スグルは違反行為であると知りながらアヤカと関係のあった人の脳の中に入ってアヤカの情報を探った。アヤカはある事件に巻き込まれていた。ある人を助けるために事件の犯人である男の脳内に自分の意識をダウンロードして男を説得して事件を防ごうとした。しかし説得に失敗してネット上を彷徨うようになってしまった。
スグルの意識データはアヤカの意識データに辿り着く。しかし、スグルも制限時間をオーバーしてしまいアヤカと一緒に永遠にネット上を彷徨うことになる。

文字数:1200

内容に関するアピール

100年後の未来はクオリアの仕組みが解明されて、人間が感じる意識や感情を全て電子データに変換することができている、と想像しました。ネット社会はさらに進化して、あらゆる物がネットで繋がり、ネット網の中を、意識を電子データ化して自由に飛び回れる、という設定の未来世界です。最終的には、意識をデータ化してしまえば体はいらなくなり、意識データとしていつまでも存在し続けられる不老不死になり、地球上は人間の意識データだけが飛び回る世界になってしまう、と想像できますが、それは100年後よりずっと先の未来の話。今回の100年後の世界は、意識をデータ化する方法を手に入れたばかりで、いろいろな問題に直面する人々の物語にしたいと思います。電子データになった自分を想像しながら、洗濯機や掃除機になった気持ちを想像しながら、他人の心の中に直接入っていく気持ちを想像しながら、実作を書きたいと思います。

文字数:390

課題提出者一覧