アンリアライズ

印刷

梗 概

アンリアライズ

雇用の多くはAIにとって代わられ、ベーシックインカムで最低限の生活はできるものの、多くの労働者は実質的な失業者になりつつあった。現実逃避の手段や、失われつつある人間関係を補足するものとして広くVRが活用されている。現実世界で存在するものは「実在系」と呼ばれ、仮想世界で存在するものは「仮想系」と呼ばれていた。
 警察の仕事はまだ部分的に人間が務めており、刑事のサリクは同期の女性刑事・シアンと組んでいたが、シアンはサリクをかばって意識不明の重体となる。シアンは入院の後に現場復帰するが、戻ってきた彼女は頭角を現す。かつての不注意で弱いシアンに対して仄かに恋心を抱いていたサリクは、嬉しく思いながらも違和感を覚える。
 その頃、AIが理由もなく破壊される事件が連続し、二人はその案件を担当する。調査の結果、ある宗教の中の宗派が、AIによる管理社会を認めていないことを突き止める。サリクはターゲットの宗派に流布していたVRを解析しようとし、その過程で洗脳されかけるが、踏みとどまって精神的な迷子になったところでシアンによって助けられる。二人は破壊事件の犯人たちがVRによって洗脳されていたのだと推理する。
 洗脳VRの作者は、もともと映像系のクリエイターだった。しかしAIに仕事を奪われたために恨みを持ち、AIに解析できない不条理な感情、信仰を喚起するVRで宗教の刷り込みを手段としてAIの破壊を試みたのだった。問題のVRを解析しようとすると、AIは情報過多でオーバーフローを起こし、人間は洗脳されるか狂人になる機能が投入されていた。それにも関わらず、AIには事件を突き止められず、人間であるサリクとシアンに追いつめられたことに人間の勝利を見出した犯人は、満足して自害を遂げる。
 事件は解決したかに思えたが、サリクはシアンがVRに惑わされなかったことから、シアンが人間ではないと看破していた。実は本物のシアンは事故によって脳死し、今のシアンは肉体をそのままに、精神は元のシアンにタグ付けされた情報から再構成されていた。シアンは自分がAIではないと主張するが、サリクは定義がどうであれ、彼女はかつてのシアンではないと言い捨てる。理解されないことに絶望したシアンはビルから飛び降りる。その死体は本物の人間と同じだった。
 サリクは一方で、人々はVRの世界に埋没するばかりでなく、自身が仮想系になりたいとまで願ったために洗脳されたのであり、VRに逃げ込まずに現実を見据えるAIの方が、逡巡という人間らしさはないにせよ、実在系としてまっとうなのではないかと感じる。また過去のシアンよりも、死んだシアンの方が一般論としては魅力的であり、過去の弱いシアンに惹かれる自分は実在系としては弱者だと心の奥で認めていた。
 職場に戻ると辞令が出ており、サリクの仕事はAIが賄うことになっていた。

文字数:1180

内容に関するアピール

近い将来、AIが多くの労働を担うことが予想され、人間とAIとの労働のすみ分けに納得がいかない人も出てくることと推測されます。本稿は、AIによる労働介入を必ずしも肯定できない人間をメインキャラクターにしました。
 登場する犯罪者はAIが活躍する今の状況を否定し、主人公は現実に適応できるものの、自分の存在を仮想化したい(現実化したくない)と願う他者に違和感を覚え、現実の中で活動するAIの方がまともだと考えます。また、理想的になった恋人よりも、昔の短所が多かった恋人の方が好ましく感じる自分の感情に戸惑い、人間らしさとは弱さでしかないと感じはじめます。
 一方で、自分で記憶を削除できないAIにとって、執着は強いのにそれをあっさり捨てる矛盾に満ちた人間は、不気味で分かり合えないように映るのかもしれず、その(人間臭いとも言いうるような)悩みをヒロインで体現できればいいなと思います。

文字数:388

課題提出者一覧