ハムスターの回し車

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梗 概

ハムスターの回し車

21世紀半ば、地球の自転は穏やかに遅くなっていた。それに伴い、世界各地で落雷や地震が増加、埼玉の空には時にオーロラがかかった。そして22世紀を迎えて間も無く、大学生だったA子によりそれまでの常識を覆す、ある仮説が学会に提出される。「ハムスターの回し車理論」である。

この理論によると、地球のコアには巨大な齧歯類の生物が2匹おり、協力してコアにある回し車を回転させていた。それは46億年続いたが、一方がその行為に対する興味を失い、それに合わせて急速に弱っていったのだという。そしてついには力尽き、現在回し車を回している巨大生物は一匹のみに。これにより、地球の自転は遅くなりつつあるのだとした。

このトンデモ理論に、当然学会も興味を示さなかった。しかし、増える自然災害に業を煮やしたアメリカ海洋大気長士官部隊は特殊部隊を設立。2105年にはついに地底3200kmに向けて無人地底探索機を派遣。そしてそのカメラが想定していなかった映像を地上に送ってくることになる。そこには、骨のみになった巨大な齧歯類の屍と、回し車をトボトボと回すもう一匹の姿が映っていたのだ。

地球生物学を専攻する学部の准教授となり、ルームランナーで走りながら研究を行っていたA子に、特殊部隊から声がかかる。映像を見たA子は驚愕する。回し車理論の提唱者として、この二匹の命名を依頼されたA子は、生存している側をハムオ、屍となった側をハムコと名付ける。

A子を加えた特殊部隊先導で、地上からハムオの観測は続けられる。開始当初はトボトボと回し車に乗っていたハムオだったが、2109年には乗ることを止めてしまっていた。そして2110年、ハムオの死亡が確認される。涙を流すA子。

ハムオが亡くなってからも、回し車は惰性で回転を続けていた。しかしこのまま行くと、8年後には完全に動きが止まることが分かっている。あらゆる自然災害が過去最悪を更新し、人類の減少が始まっていた。ハムオ・ハムコを信仰する宗教は勢力を増し、ネズミを捕食するとして猫の飼い主が迫害された。

このままでは人類は10年持たない。特殊部隊は回し車を人為的に回せないかを画策。その中でA子の理論に疑問を持つものが現れる。「なぜここまで分かり得たのか。まさかA子は」。しかし、自転の減速は地球を覆う電磁派に穴を開けるステージに到達。直接の太陽風を浴びた懐疑者は、計画もろとも炭になってしまう。世界中で戦争が始まる。

ひと気の無いスポーツジム。ルームランナーで走っていたA子は、汗を拭うとジムを後にする。スポーツバックを手に外に出たA子の前に、ランドセルを背負った少年が現れる。少年は、ひまわりの種を手にしている。A子の手からスポーツバックが落ちる。

「ひまわりの種、食べる?」「ハムオ?」「そうだよ、ハムコ」

A子は駆け寄って、ハムオを強く抱きしめる。

 

2119年、人類は滅亡した。

文字数:1188

内容に関するアピール

昔、名のある物語のヒロインがこう言った。「ただの人間には興味はないから、この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい」。これを読んで僕は、地底人が出てきたらいいなあと思ったんです。

地底人って、他の不思議存在と比べてもはや存在しない感が高いじゃないですか。だって無限に広がる宇宙や果てし無い未来と比べて、どうしたって有限だし地球。あと、仮に居たとして、たぶん非知性体じゃないですか。「ウッホホッホヤッホッホ」て言いながら這い出てくると思うんですよ、なんか、そういうイメージが地底人には付いてると思う。

そういう、切なさとかおかしみを携えた存在、僕は好きなんですよ。だから強くあってほしいというか、一目置かれてほしいみたいな感覚があって、当初の想定とはそれましたが、こういう話になりました。広義のおねショタ。分かりにくいかもなので、調整と学習をしていきたい。

文字数:392

課題提出者一覧