ルインの少年

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梗 概

ルインの少年

 山間部にぽつんと作られたニュータウン。

 かつては政令指定都市のベッドタウンとして栄えていたが、それは数十年以上も前のこと。今ではほぼ全ての家が廃墟と化しており、ここで暮らしているのは数人の老人と一人の少年ヤマドだけであった。老人たちの一人であるヤマドの祖父は、ニュータウン内にある公園を改造して小さな農場を運営しており、ヤマドはそこで農作をしたり、家畜の世話を毎日行っている。

 時折、祖父の機嫌がいい時は山へ狩りに誘ってくれるが、それ以外はニュータウンの外からヤマドは出た事がない。祖父いわく、ヤマドが生まれる十年ほど前からひどい伝染病が流行り、ヤマドの両親も含めてたくさんの人が亡くなったそうだ。それで今もニュータウンの外には感染者がいるかもしれないから危険だと言われ、いつも外出を止められてしまう。

 

 ある日、珍しく機嫌のよい祖父から狩りに誘われて、ヤマドはニュータウンを出て山へと向かうが、祖父が斜面に足を滑らせて怪我を負って立ち上がれなくなってしまう。ヤマド一人では祖父を支えきれないため、他の老人たちの力を借りるためにニュータウンへと戻る。

 すると、滑降中の巨大なモモンガのような物体が宙に浮かんでいるのが目に入る。ヤマドは驚いて弓矢を放つが、岩にぶつかったかのように弾かれてしまう。改めてモモンガのような飛行物体を観察すると、下腹部にあたる部分が一部透明になっており、中から大勢の子供の顔が見える。ヤマドが驚いて立ち尽くしていると、ニュータウンの老人たちがやってきて、ヤマドの弓矢を取り上げて頭を深々と下げさせる。しばらくするとモモンガのような飛行物体は飛び去っていった。

 

 一体あれは何なのかヤマドが尋ねると、老人たちは観念したように話し始める。あの巨大なモモンガのような飛行物体は人間の作った乗り物で、今の時期になると小学校という教育施設の行事のためにここを訪れるという。ニュータウンの外は危険でも何でもなく、祖父から聞かされていた事はすべてデタラメであった。怒りにかられたヤマドは祖父の元へと戻り、掴みかかろうとするが、血を流して蒼白となった祖父の顔を見て冷静になり、追いかけてきた老人たちと共に祖父をニュータウンへと運ぶ。

 

 数日後、祖父の容体が落ち着いてからヤマドは問いかける。なぜ、自分に嘘をついていたのか。すると祖父は意を決したように口を開く。数十年前、人口の激減を受けて国はインフラを整えるために人の住む居住地域を指定したが、祖父は職を失ったせいで住む場所を失い、人の住む「居住区」から追い出される事となったそうだ。そして、人の住まざる「居外区」に放り出され、生きる希望を失ったいた時に見つけたが、捨てられた赤ん坊であり、それがヤマドだったという。

 ヤマドはその話に呆然とするが、同時に自分を捨てたとしても両親が生きているの会いたいと伝える。祖父であった男は寂しげに目を細めるが、そこに行けばきっと保護をしてもらって両親に会う手掛かりになるだろうと言われ、ヤマドは福一廃炉特別自治区という一番近い居住区の場所を伝えられ、そこを目指してニュータウンを出る。

文字数:1289

内容に関するアピール

 未来予測で最も正確なものは、人口だという話を聞いた事があります。
 内閣府が2014年に発表した資料の予測によれば、2100年の日本の人口は5000万人弱になる見込みとのこと。

 現在の人口から半減以下、今話題のMCUの某ヴィランがもたらした惨劇よりもさらに大きな被害が襲い掛かってくる訳ですから、
全国隅々にまでインフラが行き渡ったままではいられず、地方が消滅してしまうのではないかと考えました。

 ただ、今まで日本が地方に押し付けていた負の遺産までは綺麗さっぱり捨てることはできず、未来に引き受けていく必要があるのではないかと思い、その象徴としてやや唐突かもしれませんがラストシーンで福一原発の名前を登場させました。

文字数:307

課題提出者一覧