超犬

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梗 概

超犬

1) 俺はあるライブハウスの跡地で『超犬』と呼ばれるクローン犬の闇闘犬に出場している。試合後「親父さんの情報を手に入れたよ。イエメンにいるらしい」と知り合いに教えられる。かつて戦場ジャーナリストだった父は十年前に失踪していた。「詳しく聞かせてよ」 父の情報を手に入れ、家に帰ると母が倒れていた。

2) 母の遺品整理をしている。母はガーシュウィンが好きだった。「これがクラクションの音。もう私たちが聞けない音がこの音楽には吹き込まれているの」という言葉を思い出す。父もいなくなり、祖父も数年前に他界し、今、母も亡くなった。しかし太郎(クローン闘犬)がいる。こいつだけが唯一の家族だ。ダンボールを開けると一枚の写真が出てくる。ソコトラ島固有の木『竜血樹』。そばには父の手記があった。

 2108年8月27日。
 サナアからソコトラ島に飛行機で来た。
 ここではクローン闘犬が行われており、
 革命軍の資金になっている模様。

3) 俺はソコトラ島での超犬に参加すべくイエメン行きの飛行機に乗った。そこで祖父を思い出していた。
 俺が小学生の時、一匹の土佐犬を連れ、故郷を追われてやって来た祖父。高知の闘犬が全面禁止になり、種付けも禁止されたのだという。しかし祖父は言っていた。「この命は必ず引き継ぐ。うちは闘犬の家なんだ」と。
 その後いつだったか突然家に誰かが来て、ホッチキスみたいなものを太郎の腹に挟んだ。(あれは一度だけだっただろうか。記憶が曖昧だ。)それから二ヶ月後、一匹の子犬が家に来た。子犬は祖父の太郎そっくりに成長し、数年後に祖父から太郎の名を襲名した。

4) 空港に着くと、迎えに来ていた運営側の人間にある施設へと連れられた。そこで早くも父と再会した。父はブリーダーをしていた。しかも全てが太郎。太郎が数十匹いる。なぜこんなところで太郎を大量繁殖しているのか、父と口論になった。(父はここの超犬産業を強大化することで革命軍に貢献している。)
 数日後。父を監禁し、ゲージの扉を全て開け放ち、数十匹の太郎を施設内に解放した。俺は闘いを煽る。太郎たちは殺戮を繰り広げる。最後の一匹、血みどろの太郎が立っている。「太郎、行け」俺の太郎を対決させる。俺の太郎が相手の皮膚を食い破る。勝った。よくやった。俺はしゃがみこみ、太郎を抱きしめる。そして太郎の胸をナイフで突き刺した。太郎は驚いたように目を一度見開き、眼光を弱めていった。

5) タクシーを走らせる。砂岩の丘、竜血樹の下に太郎を埋める。家族として愛していたこと、闘犬として育てざるをえなかった運命、クローンへの戸惑い、様々なことを話しかけながら。
 タクシーがクラクションを鳴らして俺を催促する。「ああ、これがクラクションか」初めて聞く本物の音に母との幸せな思い出が蘇る。タクシーに戻る。運転手が「電話をかけてくる」と出て行く。後部座席で待つ。タクシーが爆発した。 

文字数:1199

内容に関するアピール

【物語】
闇でクローン闘犬をしている拓也がイエメン・ソコトラ島で失踪した父と再会、対立し、父の理想を破壊して、最後に自分も殺される物語。

【ポイント】
クローンペットビジネスにおける「生命倫理」を命題に、クローン闘犬というモチーフを用いて一組の家族の破滅を描きます。闘犬師という家系(=運命)に拓也と太郎は翻弄されます。そして《失踪した父親を探す》という行為が物語を悲劇へと導きます。見せ場は太郎たちが殺し合う場面。

【舞台と背景】
◆内戦が落ち着いたイエメン。それでもテロは散発している。ソコトラ島は革命軍の拠点。
◆クローンペットビジネスが規制される世界。中国がソコトラ島を舞台にクローン闘犬を裏で操っている。

【各テーマ】
◆拓也の太郎…家族愛・固有性
◆父の数十匹の太郎…量産・匿名性・産業化(⇒拓也の太郎との対比)
◆父と拓也…大義(革命への貢献)と小義(家族愛)の対立
◆竜血樹…非クローン性のシンボル・墓碑

文字数:399

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