梗 概
宝くじ
ある日、私は時間がループしており、自覚しているのは自分だけと気がついた。
ブラック企業勤務で、仕事をこなすだけで精一杯だった私は、繰り返しても、繰り返さなくても違いはないと考えループを放置する。
これまで電車での通勤時間はぼんやりと過ごすことが多かったが、気力がある時は携帯電話で小説を書いていた。だから、この繰り返す日々でも小説を書くことにした。書いたものもループすれば消える。それでも繰り返す時間で永遠に執筆できるのは幸福だ。
書いたものは毎日小説投稿サイトに投稿する。誰かが読んでくれるなら嬉しい。ある日、続き楽しみにしていますというコメントが付き舞い上がった。
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宝くじに当たった。当たりの内容は一般は使用不可な科学技術の使用権。僕の三等は、過去時空で個人に対して時間をループさせる権利だ。内容は全て公開される。これは娯楽とされており、よい娯楽提供者は名誉を得る。
予想ができないことも楽しみの要素だ。事変後だと意味がないので、事変前だが昔すぎない時代。成人だが若い人と指定し、あとは宝くじ科学振興協会に一任し情報を小出しにしてもらう。
協会からの最初の報告は、ループ対象者は西暦2013年の日本に住む25歳の労働者。ループに気がついたが反応なしというものだ。
三週間後に対象者が小説を投稿をした。「続き楽しみにしています」とのコメントを協会にお願いし、コメント欄での交流が始まり楽しんだ。
ある日、以前の投稿内容を含んだコメントをしてしまう。翌日からそちらはループしていないのか、助けてと切実な言葉が溢れた。
コメントを返すことができなかった。娯楽提供者として何かしなければと焦る。追加報告がきた。対象者が匿名掲示板というもので頭がおかしいと晒されていると。
ループから解放するべきか悩む。が、抜け出す努力すらしていない現状は過去改変実験としても失敗だ。ループ脱出に向けて努力するように誘導し、ひたすらに応援した。匿名掲示板では僕も罵られる。
するべきことは何だ?
追加情報がきた。過去、亜種人類発生事変が発生した。遺伝子が突然変異した子供が生まれ、やがて亜種人類と呼ばれる群れとなり人類と対立。殺し合いは今も続き憎み合っていた。対象者は、初期亜種人類の親だった。罰を与えれば公共の受けはいいだろう。
コメントができなくなった。
「コメントをください。あなただけが希望なんです」
どうすれば?
やがて何も投稿されなくなった。失敗したのだと自覚した頃小説が投稿された。初回の投稿と同内容で、コメントは「小説をそちらで保存してください」。わかりましたという返信と保存を協会へ頼んだ。
半年後長編小説が完結し、ループ終了を決めた。
最後に協会から追加情報がきた。亜種人類の親である対象者は、はじまった対立に巻き込まれて42歳で殺されるらしい。これで公共は溜飲を下げてくれるのだろうか。僕は笑った。
文字数:1200
内容に関するアピール
それぞれ立場が違うため情報格差が発生しており、そこから起こる混乱をキーにストーリを作り、物語とは何だろう、他人に干渉するということの責任や意味、的な内容にできればいいなと思っています。
もっと詰めて考えて取捨選択しなければいけない部分が多数あるのですが。
協会の目的は過去を改変して、遺伝子の突然変異を防ぎ、亜種人類を発生させないこと。
現状失敗し続けており、過去に手を入れても現在の問題が解消されないなら、過去への干渉はより慎重にするべきという考え方になっている。
干渉実験を続けるため、世間からの許容の空気を作るために設定されたのが宝くじ。全てを公開することと、実験内容はランダム(特定の狭い目的に偏った実験にならないこと、多様性の確保を目的)とすることで押し切ったところ、公開された内容が娯楽として受け入れられたという設定(?)です。
娯楽としての公開は、全てが終わった後です。
文字数:387