梗 概
「グッドモーニング、フレンド」
下橋玲音は小学4年生。
離婚した母の仕事の都合で、最近、地方の街へ越してきた。
吃音症の彼は、新たな同級生達から「レオンと口をきくと、話し方がうつるぞ!」と心ない中傷を受け、孤立中。
担任に窮状を訴えたくとも、上手く言葉にする自信がない。母に心配はかけられない。
だから放課後、玲音は独り、学校の裏山に不法投棄されたガラクタの山へ。横倒しの冷蔵庫に腰掛け、図書館の本に目を通す。母が帰宅する頃、山を降りる。
それが玲音の日常だ。
ある放課後、地震が起き、瓦礫が崩れて金属製の箱(ミカン箱サイズ)が露出。箱の四隅には蜘蛛のような機械の脚。瓦礫から這い出す箱。
箱上部の半透明の半球内でカメラが旋回し、冷蔵庫に棒立ちの玲音を捉える。
舌足らずの人工音声が響く。
「ヤマダカナさんかニャ?」
ふるふると首を振る玲音。
「お届け物があるのに、困ったニャ」
誰何する玲音。彼の不明瞭な言葉を、箱は急かさず、級友のように嘲笑せずに聴いてくれる。玲音と箱の拙い言葉の応酬の結果、以下が判明。
・「箱」はある研究機関が、企業の依頼で開発した自立型配送マシン。
・運用試験で、「箱」単独で研究機関を発って以降の記録データは、事故にでも遭ったか欠損。再起動したら、ここに。再起動までに要した時間も不明。
・研究機関や企業のデータも欠損。「箱」には製造者や所属を示す表示は一切ない。
ヤマダカナも所在不明。行くあてがない「箱」。
玲音は「ここにいて」と伝え、放課後に彼と「箱」との交流が開始。
「箱」に本を朗読し、時に自分の現状を話す玲音。吃音を決して揶揄しない相手に、伸び伸びと話す。
いつものように玲音が裏山を訪れると、半壊した「箱」が地面に転がっていた。
~授業が終わると、嬉しそうに帰る玲音を、不審に思った級友が後を尾け、玲音と「箱」の交流を目撃。彼が家に向かった後、転がっていた鉄パイプで「箱」を滅多打ちに。勿論、玲音への嫌がらせだ。
「箱」の残骸を抱き抱え、号泣する玲音。
翌日、憂鬱な顔で登校した玲音に、わざとらしく
「何、暗い顔をしてるのかなぁ~ニャ?」
声をかける級友。
その語尾で「友」を殺した犯人を悟った玲音は、彼に飛びかかり、絶叫。騒ぎを聞きつけた担任が羽交い締めに。
両者、喧嘩の原因を黙秘。双方の親が呼び出しに。
学校からの帰路、暴発の理由をつっかえながら母に語る玲音。真相を聞き、息子を抱きしめる母。
近々、仕事の都合で、玲音に転校を強いるのを悩んでいたが、吹っ切れたと母。
「そんな学校、こっちから願い下げだね」
間もなく母に伴い、海外へ転校する玲音。その国では吃音への手厚い医療と支援体制が整っており、数年で日常では支障がない程、吃音が良くなる玲音。
工学系の大学へ進学し、あの日持ち帰っていた「箱」の残骸から、AIの復旧に成功する。
「玲音……かニャ?」
「グッドモーニング、マイフレンド」
文字数:1188
内容に関するアピール
今回のお題だと、”孤独な少年少女と「ペット」の交流”というお話が多そうなので、それは避けたいと思ったのに……結局、このザマだよ!(苦笑)
「ペット」は宇宙生物、遺伝子工学研究所から逃げ出した実験動物、果ては「意志を持った人工マイクロブラックホール」など候補は幾つか。
結局、動物よりは「ある程度、意思疎通が可能な無機物」が良かろうと、本稿の「箱」とあいなりました。
モデルは某ファミレスで稼働中と聞く、配膳ロボだニャ。
毎回、課題に猫を出すのが個人的なテーマ→今回のお題では、猫を出せないので悩む→苦肉の策で「箱」の語尾を「ニャ」にしたら、終盤の展開がスルスルと決まったのはケガの功名(?)でしたが、SF色は薄いかも。
参考資料:「無理解で苦悩する吃音(きつおん、どもり)の若者たち。”注文に時間がかかるカフェ”が夢を後押しする」(https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2021/63184)
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