梗 概
その音が、響くとき
飛騨の醸造会社の社長室に3人の人物がいた。
作業着姿の男性、スーツに身を包んだ若い女性、酒樽の如き外見のカトル人。
カトル人が触手で携帯端末を掲げると
”ホイホイ♪”
と軽やかな決済音が。
この瞬間(グリニッジ標準時で西暦2211年9月22日午前7時)、地球の公転周期ごとに高級醤油千ガロンが、カトル星へ輸出される契約が締結された。
スーツの女性・ミオリ(26)は、異星文明間の大規模な取引の際、トラブルが発生しないよう立ち会う《ゼネ》公認の「見届人」だ。
~「全世界」という言葉が、まだ地球だけを指していた2058年。
電子決済サービス会社『Hoyhoy』は、熾烈な競争を勝ち抜き、並み居るライバル企業を駆逐。業界での一人勝ちを達成した。
~2095年。超空間航法を駆使し、地球圏に飛来した地球外知的生命体ヌコ(その姿は何故か地球の猫に酷似)と地球人類は接触。人類は、ヌコを通し、宇宙には数百の知的生命体による半径5千光年の相互交流文明圏が存在することを知る。
紆余曲折の末、2112年、地球は《ゼネ》へ加わった。
《ゼネ》所属の文明には、何故か貨幣経済という概念がなく、高度な科学文明を持つ彼らの商取引の基本は、未だに物々交換だった。
地球文明との接触で、初めて貨幣経済を知った彼らは、その根幹を支える『Hoyhoy』の簡便性をいたく気に入った。《ゼネ》内での商取引が、『Hoyhoy』による決済に代わるまでに、さしもの時を要さなかった。
彼らは、タキオン粒子による『超即時通信技術』を地球に供与。かくして『Hoyhoy』の決済システムは飛躍的な発展を遂げ、《ゼネ》のどこにいても瞬時に電子決済が可能となった。
飛騨から東京への帰路、ミオリは黒服の男達(政府筋の人間)に拉致され、ラグランジェ点にある資源採掘用小天体の一つW5の近傍へ、小型宇宙船で連行される。
W5には、一般には所在が秘匿された『Hoyhoy』の主幹システムが丸ごと収まっていると告げる黒服。W5は普段は無人だが、点検員を装って侵入したカイ(32)は高性能爆薬搭載の小型ドローンを使い、セキュリティを無効化。要求を呑まねば、W5を爆破すると宣言。
カイの要求は、かつての恋人ミオリとの復縁。うめくミオリ。彼から受けた熾烈なDVの記憶が蘇る。
黒服によると「主幹システムは唯一無二の存在。バックアップは存在せず、もし破壊されれば《ゼネ》内の全経済活動は瞬時に破綻する」
ミオリは単身、W5に乗り込む。カイと再会し、復縁を承諾。要求が通り、油断したカイを、4年前、彼の許から逃げ出した後、自衛のため習得した近接格闘術で、瞬時に制圧するミオリ。
爆薬の起爆装置を兼ねた彼の携帯端末を壁に叩きつけて粉砕。その際、誤作動したのか、
”ホイホイ♪”
と決済音が響く。
その音を耳にし、ようやくミオリは、カイとの関係を「精算」できた気がした。
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内容に関するアピール
今回の課題を最初に見た時の絶望感たるや!(笑)
私が過去作で「異星文明由来の超技術(オーバーテクノロジー)」なる設定を乱用してきたのは、「私が、最新の科学技術に疎いから」に他なりません(苦笑)
今回、安易に多用してきた『抜け道』を完全に封じられ、大変に苦戦しました。
結局、知人から熱心に勧められて、昨年末からイヤイヤ使い始めた『PayPay』が使ってみると、大変便利で、すっかりハマってしまった経験と「お金の話が大好き!」な私の嗜好が、悪魔合体!
執筆初期、「『Hoyhoy』は独占禁止法の適用をいかに回避したか?」とか「企業としての内実がどうなっているのか?」などを延々と書き込んでいたら、それだけで制限文字数を軽く超えてしまい、また『これだと単なる世界設定の解説文で、小説の梗概ではないな』と気づき、軌道修正した結果が、本稿です。
結末が無理矢理ですが、今はこれが精一杯。
文字数:389