流れる者、留まる者

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梗 概

流れる者、留まる者

 星間国家の内乱から生じた難民船団が、誤射を受けて近くの惑星のあちこちに墜落して数百年。文明は一度失われたが船ごとに異なる再興を始めていた。距離はあるが商人も行き来し、独自に発達した文化や生産物を伝えていた。
 植物が多数茂る大きな丘を「竜の墓」と呼んでいる集落に、商隊がやってきた。このあたりでは産出しない油等を色々と携えていた。 
 商隊の人間の一人、エイットゥルは引き車の上で憮然としていた。彼が足に怪我を負ったので治療するため近くの集落に寄ることになった。乗り気ではないが旅暮らしでは怪我人は他人の手をかなり煩わせることになる。
 集落に着き、長老アルファズルにも挨拶したが、長老もまた品のために仕方なく引き受けるといった態度だった。当然だと考えている間に話がまとまったらしく、慌てて頭を下げた。
 商隊はエイットゥルを置いていくついでに取引をして去った。
 手すさびに木切れを彫っていると、見知らぬ人間に臆しない一部の子供達が寄ってきた。じろじろと見ては質問攻めにしてくる。苦笑いしながら答えていた。この集落では珍しい手鏡を見せてやると、日の光を反射させて遊んだ。が、暫くすると、子供達のそれぞれの母親であろう女性達に何も告げずに連れて行かれた。
 日が傾いて動物の彫刻が出来上がった頃に、農具を手にした若い男達の集団が来た。足に板を縛り付けた知らない男がいるのを見て一様に驚いたようだった。その男達に若い娘が駆け寄り、何事かを告げた。自分のことだろうと見当を付けた。男達は納得した様子で散っていった が、一人だけ残って近寄ってきた。その、まだ少年といっていい年頃の者はスヴェルと名乗り、自分の家で世話をするから来い、と言った。
 立ち上がろうとして、上衣の物入れから彫刻が落ちた。スヴェルが拾い、エイットゥル顔色を変えた。肩を貸してきたが乱暴で、怪我人をいたわるものではなかった。
 スヴェルの家に親らしい者はおらず、年老いた夫婦がいた。スヴェルはエイットゥルを椅子に放り出し、祖父母らしい男女に木彫りを見せた。同じものがこの家にはあった。だからこの集落には来たくなかった、とエイットゥルは溜息をつき、目の前の机に手鏡をおいた。かつてこの家の娘に手渡し、旅立ちの折に渡されたものだった。
 長老がやってきて、スヴェルも父の顔、父について行って証人になる選択肢があることを知っておいた方が良いだろうと許可したことを告げた。スヴェルは話の間、ただ手鏡と木彫りを見詰め、終わるとエイットゥルに罵声を浴びせ始めた。
 一夜過ごして落ち着いて、エイットゥルの旅立ちまでに色々と話し合って決めろと言って長老は去った。
 様々なことを話し合う内に時は過ぎ、エイットルの怪我も随分回復した。戻ってきた商隊の車に乗り、共に来るかとスヴェルに尋ねた。スヴェルは自分はこの集落の人間だ、と答えた。母と同じ答えだった。
 

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内容に関するアピール

 私達には当たり前でも、見たことがない方には最新技術。と屁理屈ごねでいつものカラーで書きました。
今回はこれを機に新しくシリーズものが作れそうなので、機会があれば書いてみたいです。

文字数:89

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