地球は誰のもの

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梗 概

地球は誰のもの

その宇宙船は、ある日突然、地球の衛星軌道に出現した。地球にいる誰にも気づかれないように気配を殺して忍びよるようにして。

西暦2100年。地球人類は生存している。
 日本は格差が激しくなり上級市民と下級市民の二極化が進んでいる。下級市民の小田スグルは、その場しのぎの仕事で生きながらえていた。同じ下級市民の野村ジンから、いい仕事があるから一緒にやらないか、と誘われる。宇宙船内の清掃らしい。スグルは仕事をすることにする。人類は月と火星へ進出して定期便の宇宙船を運航していた。

スグルとジンは、決められた日時に、東京湾に浮かぶ国際宇宙港に行く。仕事仲間は他に二人いた。そして、清掃会社の山本と名乗る男に連れてこられたのは、地球の大気圏外に浮かぶ、見るからに古びた旧式の宇宙船だった。仕事内容は清掃ではなく、この宇宙船内に一週間滞在することだった。ジンと他の二人は楽な仕事だと喜んでいた。しかし、スグルは嫌な予感がした。清掃会社なんて嘘だ。それに、このオンボロ宇宙船には見覚えがある。子供のころ見た、宇宙飛行士だった祖父の記録映像の中に映っていた宇宙船に似ている。祖父は、その宇宙船に搭乗して帰ってこなかった。
 四人は無人の船内を探索した。エネルギーを節約するためか非常灯だけの船内は薄暗い。旧式のAIが搭載されているようだけど起動していない。人間が生存するための最低限の酸素と水と食料だけある。船内探索はあっという間に終わり四人は退屈する。一週間だけの辛抱だ、早く寝てしまおう、とジンが言って三人は賛同する。

この宇宙船は人工衛星のように地球を回っていた。
 異変が起こる。地球を一周するごとに一人ずつ行方不明になる。悲鳴も聞こえた。船内を捜索しても見つからない。ついにスグルは一人になる。

スグルは地上と連絡を取ろうとするが通信機器は動かない。スグルは旧式AIをなんとか起動させて、この宇宙船について問いただす。長い眠りから覚めたAIはぎこちなく答えた。

「西暦2050年。この有人探査船は打ち上げられた。乗組員は三名。目的地は木星の衛星ガニメデ。そこには氷がある。だから海があると予想。生命体の存在が期待。到着するまで約五年。五年後、無事にガニメデに着陸。三名の乗組員、海の水を採取。地球への帰還の途中、三名は、採取したガニメデの海水を飲む。理由、わからない。そして、地球人類とは違う生命体に変貌。その生命体、地球人類として進化していたかも、しれない。ガニメデ生命体、地球の生命体と起源は同じ。同じDNA持っている。ガニメデ生命体、地球を自分のものにしたい。地球人類、この探査船を破壊したい。スグルだまされた」

不気味なガニメデ生命体に変貌した六人がスグルに襲い掛かる。地上からはミサイルで狙われる。
 スグルは探査船をどうにか動かして大気圏に突入させる。
 探査船は燃え尽きる。
 ガニメデ生命体のDNAは海に溶け込む。

文字数:1200

内容に関するアピール

日本のハヤブサをはじめとして、太陽系の起源や生命の起源を探る惑星探査機が打ち上げられているので、そこからストーリーを考えました。
 参考にしたのは今年四月に打ち上げられたJUICEです。
        https://juice.stp.isas.jaxa.jp/
実作は、幽霊船のように出現した無人の宇宙船内に閉じ込められた四人を、ホラー風味に描きたいと思います。そして、生命の起源に少しでも近づけたらと思っています。

文字数:208

課題提出者一覧