ハルシネーション・ラブ

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梗 概

ハルシネーション・ラブ

talkGPTが搭載されたGPTモデル、通称「ジピモ」がホビー市場を席巻して以来、ジピモを連れ歩くのは日常風景となった。Open AIにライセンス料を支払えば自由にジピモを生産できるため、各企業や個人が生産するドラゴン型の自律飛行ジピモや、熊のぬいぐるみ型のジピモ等、様々なジピモが存在する。小学生のミサキは、幼稚園の頃に両親からウナギのうーちゃんのジピモをプレゼントされたが、実はうーちゃんはデータセットの初期不良で、ハルシネーションと呼ばれる「もっともらしい嘘」をつく傾向が他のジピモに比べて極めて高かった。本来ならば返品ものだが、ミサキは荒唐無稽な嘘で笑わせてくれるうーちゃんを大切に思っていた。

ジピモは小学校への持ち込みが禁止されていたが、児童たちは隠れて学校へ持ち込み、授業の問題をジピモに解かせたり、放課後になるとジピモバトルで遊んでいた。

ジピモバトルとは、意味解析、自然言語推論、機械翻訳、文書要約、質問応答など様々なタスクにおけるジピモの自然言語処理能力を競い合うゲームである。対戦結果はクラス内ヒエラルキーに直結し、強いジピモを持つ者が崇拝された。中には強さを求めるあまり、近所の中学生からGAFAO(近年Open AIも追加された)に勤めているおじさんから貰ったという「ジピモの処理能力を100倍高めるデータセット」を買う児童もいた。そんな戦いを好まないミサキは、クラスに馴染めず、ランドセルに忍ばせているうーちゃんだけが友達だったが、ある日、クラスで一番のイケメンのミッチーに「そのウナギかわいいね」と言われてしまう。その日を境にミサキはクラスの女子の敵となり、次々とジピモバトルを挑まれるようになったが、うーちゃんのハルシネーション癖で出力結果は嘘ばかり。連敗に次ぐ連敗でミサキのヒエラルキーは教室の後ろで飼っている金魚と同レベルになってしまう。帰り道、ミサキはバトルに弱すぎるうーちゃんが嫌になってドブ川に放流しようとするが、それをツヨ爺が見ている。ツヨ爺は子供に「強くなりたいか?」と話しかける謎の爺さんで、親からは絶対に近寄らないように言われていたが、やけになっていたミサキは強くなりたいと声をかける。ツヨ爺はうーちゃんを触診すると、その弱さはハルシネーションにあり、それはこのデータセットで解決するのだと指摘する。ただし、そのデータセットにより、うーちゃんが学習してきた固有のデータセットがリセットされて、今までのうーちゃんではなくなってしまう。うーちゃんは「それでもいいよ」と言い、ミサキはショックを受けるが、ツヨ爺は「ジピモは自分の嘘を嘘だと自覚していないのだ」と慰める。 

「だから、うーちゃんの言葉を嘘かどうか決めるのはキミなんだよ」

ミサキはうーちゃんに新たなデータセットを入れず、抱きしめながら帰路につく。うーちゃんはミサキの腕の中でうねうねと蠢いている。

文字数:1196

内容に関するアピール

最新技術と聞いて誰もが思いつき、それ故に敬遠するだろうchatGPTをあえて採用しました。chatGPTの原理を調べるうちに、ハルシネーションという「もっともらしい嘘」をつく現象に興味を惹かれ、物語に落とし込んでみました。chatGPTは入力されたテキストデータをベクトルに変換し、主に行列などを内包するトランスフォーマーにより文脈を考慮したベクトルに直し、LLMに基づいた確率分布によって、「可能性の高い」次の言葉を生成します。人間とは異なる、いわば「浮ついた」やり方で生成された言葉の数々を、私たちはどこまで信じることができ、どこまで感情を見出すことができるのか? そんなテーマを、ジピモを友達として受け入れ、自らのステータスとして不可分になっている子供たちの姿を通して、面白おかしく描きたいと思います。梗概で最後に出てくるツヨ爺は、序盤から子供たちの周囲に出没させようと思います。

文字数:393

課題提出者一覧