誰もが時計職人

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梗 概

誰もが時計職人

 近未来においてインフラの劣化と人手不足から、一部の僻地指定された地域には3DプリンターやNC機械、ロボットアーム付き自動ミシンなどを備えた工房がインフラとして整備され、日用品や電化製品の修理部品をそういった地域の工房で作るようになっていた。
 駒鳥歩は、衛星通信経由のインターネット以外に娯楽のない地域に住む学生で、友達の加古ミミとともに電子版のファッション誌を読みながら、工房で時折それらに載っているブランドをまねた服や靴などを作っていた。
 夏休みの始めに貯めたお金で近くの都市まで遠出した二人はアパレルショップを見て回る。普段は目にしない大量の商品に目を回しそうになりながら、ショッピングを楽しみ二人。そんな二人に水を指すように通りがかった学生の二人の服がパチモンだと笑われる。
 お通夜のような顔をして帰る二人。ミミはポツリという。
「完ぺきなニセモノを作ろう」と。
 ミミに頼まれ歩はあるスニーカーブランドのコピーを作り始める。最終的に出来上がったものは買ってきた本物と見分けのつかないものだった。ミミは作製のための手順書をまとめ、作製用の自動機械用制御コードにおいてロゴ部分を別のものに変え、簡単に書き換えられるようにした状態にし、通信を秘匿化したうえで全世界に公開する。
 ミミの目論見通り、コピースニーカーは広く受け入れられ、ロゴ部分に代わりに自分好みのロゴや言葉、マークを入れたものが大流行りしていることを二人はSNS経由で知る。
 そして歩はミミに言われるがまま様々なコピーを作っていく。完ぺきなニセモノを作ることに当初は喜びを感じていた歩だったが、次第にミミの際限のない要求に疲れを感じ始める。ある日同じ村に住む少年から工房の道具の使い方を教えて欲しいと頼まれ、ニセモノ作製の傍ら彼の手伝いをする。彼が道具を使ってパーツが一つできたときの喜びは歩に工房で一部を除いて埃を被っていた道具を自分で調べて使い始めた頃の自分のことを思い出させた。
「わたしはもうニセモノを作らない」
 歩はミミにこれまでの協力関係を解消することを告げる。
「わたしたちの復讐は?それにもうお金ももらってるのに――」
 取り乱したミミは歩に隠してたことを漏らしてしまう。ミミは途中からブランドの競合他社から報酬をもらって何を作るか決めていたのだった。
 歩はニセモノづくりをやめ、オリジナルの服を作り始める。
 何度も試行錯誤し、夏休みが終わるとき、歩はようやく満足のいく一着を作り上げる。
 夏休み明けに謝りにくるミミ。ネットではミミと歩の作ったコピーをもとにそれを改変して新たなものを作ることが流行っていた。
「稼いだお金でプラットフォームを作ったの。手順書と制御コードを売買できるプラットフォーム。そこに歩のオリジナルとこれから作るものを登録してくれないかしら」
 歩は笑いながら、ミミの手を握る。
「稼いだお金は今度から山分けね」
 二人の夏はまだ終わらない。

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内容に関するアピール

3dプリンターで扱える素材は適用対象は近年広がっており、例えば下記記事のように、ステンレスの3Dプリンターの出力品を安価に手に入れることも可能になったりしています。

「個人で発注できちゃいました」格安金属3Dプリントでキーキャップ金型を作る

3Dプリンターのコストの低下から、場所や流通の今後の状況次第では、店や通販でモノを買うのではなく、共有の工房に各種材料を貯蔵しておき、必要なものをその場で作るという未来も十分あるのでは、というのがアイデアの一つのもとです。(ちなみに、現在のところ、布や紐といった柔軟物はロボットアームで制御するのが難しかったりするので、作中のように服を自動的に作るというのは今の技術では困難なはずです。)

近年ダイヤモンド業界において供給元のデビアスが質の向上した人工ダイヤモンドが普及することにより、天然石の価格が落ちているというニュースがアイデアの二つ目のもとです。ダイヤモンドと同じようにブランドものに関してもそういったことが起こるのだろうかと考えて、3dプリンターや完ぺきな自動縫製機などが普及した世界で起こるかもしれないことを梗概にいれこみました。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-09-04/S0FQHWT1UM0W01

 

文字数:556

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