ピルグリム

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梗 概

ピルグリム

アメリカ。黒いフードを被った男が、荒野のはずれを歩いている。時々立ち止まっては別の方向にいったり、逆方向に引き返したりする。彼は老いていて、目には何の表情も浮かんでいない。男はフラフラ歩いて轢かれそうになる。運転手のエレナは舌打ちして文句を言おうとするが、目の前の男が10年前に失踪した父親のバーノンであることに気づく。

父はスタートアップの経営者だったが、当時シリコンバレーで広まっていたニューロ・フィードバック(脳波のセルフコントロール)のセミナーに傾倒した末、突然失踪したのだった。当時の団体参加者も主催者を含めて一斉に失踪し、団体跡地からは脳への干渉装置とみられる違法な機器が多数見つかった。

バーノンを自宅に連れ帰り、何があったのかと問い詰めるエレナだが、バーノンは意味深な笑みを浮かべたまま意味不明なことばかりをしゃべる。怒ったエレナがテーブルのコーンフレークの袋を投げつけるが、バラバラに彼にぶつかったコーンフレークが、みな同じ方向、同じ角度で跳ね返って床に落ちる。

驚愕するエレナ。バーノンは突然走り出し、彼女を突き飛ばす。同時に銃声が響き、床に弾痕が走る。軍隊のような一団が彼女の家を取り囲んでいた。

バーノンは笑いながら銃弾の中を走る。まっすぐに走っているはずなのに突然直角に曲がったり、まっすぐ殴りつけた相手が何故か上空高くに飛んだりと、超常的な動きをするバーノン。唖然とするエレナはやめるよう叫ぶが、それを聞いた軍人が彼女に銃を向ける。しかし、彼らが放った銃弾は、バーノンが投げつけた一掴みの砂にぶつかって真下に落ちる。

謎の集団を撃退したバーノンに、エレナは何があったのかを改めて問いただす。バーノンたちが巻き込まれた実験は、複数人の脳波を同調させて、教祖との精神的な「同化」を図るものだった。しかし想定外の機器の故障により、バーノンら被験者たちは教祖ではない別の「何か」と脳波が同調してしまい、その副産物として、軽量な物体の力のモーメントを単一方向に制御する力を得たのだった。

立ち去ろうとするバーノンに対し、エレナはどうするつもりなのか、あの軍人たちが敵なのかと聞く。バーノンは無言で首を振り、「ワールド・ジャンプ・デーだ」とだけ言い残して去っていく。

帰宅したエレナは「ワールド・ジャンプ・デー」について調べる。それは「同時刻に一斉にジャンプすることで地球の軌道を変え、地球温暖化を防ぐ」という趣旨のイベントだった。

物体のモーメントを制御する力を得たバーノンと、同じセミナーの被験者たち。ひとりひとりの力は地球を動かすには及ばないとしても、「同調して」地球にかかる複数の力を、一定の方向にそろえ続けたとしたら…。

彼女のメールボックスに届いたニュース記事は、今年は記録的な冷夏になるだろうと告げていた。

文字数:1159

内容に関するアピール

4月に理化学研究所が発表した「エントロピー増大に逆らうゲル材料」という技術をテーマにしています。

https://www.riken.jp/press/2023/20230414_1/index.html

イメージはマーベル。バーノンは地球環境を思うヒーローなのか、外宇宙の意思によって地球を滅ぼさんとするヴィランなのか、最後まで判明しない感じで書きたいです。

文字数:178

課題提出者一覧