梗 概
宇宙! 冒険! そして金儲け!
2080年。30年代の反物質の生成技術の革新と超空間航法の開発で、人類は半径150光年の星域に進出済だ。
一代で世界的企業の主となった薫風=エドウィン(123歳)
月面都市の隠居宅で隠遁生活を送る薫風に「お探しのヒーローを発見!」と一通の電子メールが。
薫風は前世紀に隆盛を極めるもCG技術の発達で衰退した、昔ながらの特撮映像のコレクターだ。
8歳の時、近所宅の白黒テレビで観た特撮番組『宇宙リーダー』を捜し求めている。
「宇宙! 冒険! そして金儲け!」を合言葉に、宇宙で豪遊するリーダーに、薫風は痺れた。
番組は不人気で終了。薫風は最終回を見逃し、今も主人公の行く末が気になっていた。
番組の制作会社は、放送後間もなく倒産。フィルムは散逸。再放送もソフト化も一切ない幻の作品だ。
メールは、『宇宙リーダー』全9話の録画を売ると持ちかける。直接、薫風に、録画を渡すのが条件。薫風は承諾。
1ヶ月後、警備ロボのボディチェックを経て、薫風の前に現れたのは、青年と少女。
青年は自らをタントとビアと名乗る。兄妹だという。
兄の携帯端末からデータを転送。再生すると、確かに『宇宙リーダー』第1話。
”チープな特撮、胡乱なリーダー、まず何より金(かね)で結ばれた、リーダーと仲間達との絆”
そんなリーダーに夢中な幼き日を思い出し、涙をこぼす薫風。
どうやって映像を手に入れたか、尋ねる薫風。
タントたちは、植民星カナン3の出身。趣味は「星の囁き」を聴くこと。宇宙電波を自前の機器で観測・記録・視聴するのが楽しみだという。
その中に地球から百年以上前に発信されたテレビ電波が。中に『宇宙リーダー』の最初で最後のテレビ放送もあった(カナン3は地球から120光年の距離)。
様々な雑電波から、2ヶ月間、減衰したテレビ電波をより分け続け、旧式の映像情報を、現在のフォーマットに変換する等、多大な手間がかかった。加えてカナン3から月面までの渡航費も。
タントの言い値(宇宙船が1隻買えるが、薫風には端金)を、彼の口座に即送金する薫風。
「金を何に使うのか」と薫風。
「妹と幸せに暮らせる星を探す」とタント。
今迄ビアンカが、一言も発さず、表情を全く変えないことから察する薫風。
・宗教的戒律から先進治療を一切認めない、旧弊に囚われた閉鎖的な植民星があること。
・兄妹は密航で地球圏まで辿り着き、恐らく故郷からは《教団》の追っ手が放たれている。
「あなたみたいに、成り上がってみせますよ。『宇宙! 冒険! そして金儲け!』ってね」と微笑むタント。
兄妹に幸多からんことを、祈りつつ、二人を送り出す薫風。
その後、薫風は『宇宙リーダー』を最終話まで見たが、リーダーが突然、宇宙交通事故を起こし、賠償金を払えず、宇宙自己破産をする破滅的なオチに脱力し、思う。
「このオチを観ていたら、きっと今の自分はなかった」と。
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内容に関するアピール
「宇宙と時間」というお題で、色々、先行作品を思い浮かべつつ、ネタ出しをした結果が、本作です。カール・セーガンの『コンタクト』と梶尾真治先生の短編『百光年ハネムーン』が悪魔合体したみたいな話に(私の主観では)なりました。嗚呼!
作中の特撮番組『宇宙リーダー』は、E.ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』シリーズを原案にしたという『キャプテン・ウルトラ』をイメージしました。
両作のキャプテンとも、お金にはうるさくはないですが、私はお金に汚いキャラクターが好きなので、かくの有様となりました。
実作は、もっと兄妹の話を書き込んで、感動的なお話になる予定です。多分(苦笑)
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