梗 概
ふかかいでふかふかなこと
あと一杯、あと一杯飲んだらゼッタイ帰るんッダ!それは、三度の飯より酒を愛す27歳女性会社員、羅蘭こよりの口癖だった。金曜日の午後九時以降の記憶はなく、土曜日の朝はなぜかベットで眠っていた。翌金曜日に店主に聞くと、こよりは会計を済ませて帰ったという。頭を傾げつつも、ひよりは日中の憂さを晴らすように、日本酒をあおった。閉店時、ひよりはまたすっと席を立ち、会計をすませ店を出た。おつりを届けに店主が追いかけていくと、暗い路地でひよりは足元に落ちていた大きな白菜を見ていた。ひよりは白菜を持ち上げて頭に近づけた。すると白菜は真ん中でぱっくり割れて、ひよりの頭を飲み込んだ。白菜は光り、まるで頭の中をスキャンされているようだった。しばらくたつと、白菜は光るのをやめた。ひよりが白菜を地面におくと、白菜から足が生えて、ひよりと一緒に帰っていった。
ひよりは部屋になぜ白菜生物がいるかわからない。けれど、幼いころに飼っていた、ぺロ太に見えてきてしまったので、涙がでてきた。ペロ太はひよりが小学生にあがるときに家からいなくなってしまった。ペロ太は旅に出たんだと親から伝えられたが、実は死んだことを隠すために嘘をつかれたのだとあるとき気づいた。今目の前にいるペロ太を見て、長い時間をかけて戻ってきてくれたような気がして嬉しくなった。ペロ太と呼んでみる。ペロ太はしっぽを振ってひよりの頬を舐めた。ひよりは、さっそくペロ太の餌を飼いにホームセンターに行った。そこで同じように犬をつれる高校時代の友人坂下に会った。大学から上京したひよりは、高校の同級生にあうことはほとんどなかったので、こんなに近所に旧友が住んでいることに驚いた。そして、返し忘れていたマンガを返すためにまた会う約束をした。それからも、ひよりは懐かしい面々に次々と出会い、過去に積み残した些細なことをすこしずつ解決していくことになる。それは決まってペロ太を連れているときだった。
ペロ太といると、ひよりは幸せな気持ちになった。それは、ずっと一緒に居たかったペロ太の側にいること、そして、心のこりだった事柄が解決していく安堵によるものだった。ひよりの飲酒頻度は減り、それどころか外出の頻度も極端に減っていった。ペロ太と散歩をするときだけ外にでる。会社にもいつの間にかいかなくなるようになってしまった。そのあいだどのように生活しているのか、だれにもわからなかった。犬の飼い主仲間として、ひよりと度々会っていた坂下は、不審に思ってひよりの家を訪ねる。アパートの鍵は開いており、中に入ると部屋は綺麗に片付いており、ペロ太が畳の上で伏せをしていた。坂下は膝をついて、ひよりはどこかと尋ねると、ペロ太は大きな口をあけて坂下の頭を飲み込んだ。坂下はおどろくこともなく、黙ってペロ太に従った。そして、ペロ太は光りはじめるのだった。
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内容に関するアピール
白菜のような未知の生物が、人間の不安や心残りを好むというお話です。
白菜生物といると、人間の不安は解消されて、だんだんと幸せになっていく心地がします。
主人公は精神的な苦痛をかかえており、だんだんと白菜の魅力に飲み込まれていきますが、
いつのまにか、幸せの中に混濁して生活を営めなくなっていきます。が、きっと幸せです。
犬に寄せて考えてしまったので、実作を進める際もっと独自の生態を考えなければいけないと思っています。
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