トーチ

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梗 概

トーチ

2040年頃の話。2020年代半ばに起きた令和関東大震災の傷が徐々に癒えてきたころ。それでも震央付近には震災の混乱の爪痕が残っている。ある日ハジメの通う墨田区の公立中学校(少子化により一周回って治安が良くなっているので特にこだわりのない子弟はそこに通う)に隅田川の向こうからケンジという子が越してきた。ハジメの学校には珍しいタイプの活動的な性格で男子には人当たりは良い。
 しかし彼は母子家庭であり、信用スコアが足りず、ハジメ達の家に招かれようにも入り口での認証で拒否される。クラスの面々は大体スマートタウンの住人であり、放課後はその区画内で過ごす。お互いの家を行き来するか、ジムエリアの体育館で遊ぶかしている。学校ではそれなりに活動的でクラスの男子と交流のあるケンジも放課後では蚊帳の外である。

ある日クラスで盗難事件が発生した。女子ウケの悪いがケンジが疑われるが、証拠が集まる前に犯人扱いされ、自宅謹慎処分となった。実は女子の勘違いによるものと判明したが、ケンジは家を飛び出す。
 ケンジは隅田川沿いの河川敷によく訪れることをハジメは知っていた。隅田川沿いから震災で傾いたトーチタワーを眺めているのを帰り際にたまに見ていた。果たして河川敷に行くとケンジが黄昏れている。彼は川向こうのかつて住んでいた街に戻りたいといい、そこには4つ上の兄がいて、一人で暮らしているのだそうだ。ハジメも同じタウンの中での遊びに若干飽き気味だったし、親からは決していってはいけないと言われていた川向こうの街が気になっていたので一緒に行く事にした。

川向こうの街は未だ復興が成されておらず、まだ荒れ地のままである。震災の被害が未だに残っており、至る所にジャンク屋やよく分からない怪しい店が並んでいる。街ゆく人の身なりも何か汚い。ここに来てハジメは怖くなってきたが、ケンジは平気である。と、町中でハジメ達はトラブルに巻き込まれるが、そこに通りがかったケンジの兄のシンイチによって助けられる。そのままシンイチの家に転がり込むが、その次の朝にケンジがいなくなった。

実はケンジの父はゼネコン勤務で、トーチタワーの建設に関わっていたが、建設中の震災により亡くなってしまったそうだ。ケンジはかつての父の最後の仕事の成果であるトーチタワーに行ってみたいと言っていたのをシンイチから聞く。今は立ち入り禁止となり傾き始めているトーチタワーに向かったのではないか、と。急いでシンイチはトーチタワーに向かう。ハジメはここで待てと言われれているが、どうしようもなく気になってトーチタワーに向かった。
 60階もの階段を上り、何とかトーチタワーの屋上にたどり着くと、既に日が沈みかけているなか、そこにケンジがいた。ハジメの住むタワマン群を見て、「俺の父ちゃんはあそこよりももっとでっかいビルを作ってたんだぞ」と泣きながら言った。

文字数:1186

内容に関するアピール

丁度関東大震災から100年目ということで、もし今同じような規模の災害が関東で起きたらどうなるかというのが一つ目のきっかけです。
 災害とスタンピードという不可分の内容について思うことがあったのと、もう一つのきっかけが顔認証と無人店舗サービスのニュースについてです。もしスマートシティとこれらの技術が組み合わさったとき、階層の分断というものを予感しました。

文字数:176

課題提出者一覧