人類ver∞

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梗 概

人類ver∞

 地球から最も近い恒星リギルケンタウリにて異変が見られるようになった。当初は恒星活動の異常かと思われていたが、観測の結果生物としか呼びようがないものが恒星の周囲に認められた。観測から予測される大きさは実に地球を楽に丸呑み出来るほどだった。同じ頃太陽系の外縁部にも異変が観測された。数十もの小惑星のような天体が地球を目指して移動していた。それらが火星起動を通過した頃、地球からはそれらの姿をはっきりと捉えた。それぞれの個体に生物のような鱗じみた外殻が見られた。
 また同時にリギルケンタウリでは先に観測された巨大な物体が動き始めた。この生物群を追ってくるかのように太陽系に侵入し、木星を通過した時点で地球からも肉眼で観測することができた。それは大蛇だった。先に侵入した生物群はその大蛇に追われるように退散したが、大蛇は地球を丸呑みした。

 その蛇は神話でウロボロスと呼ばれていた。蛇の体内は時間が無限である。地球は大蛇の体内で幾度も破滅と再生を繰り返した。何度も人類は争いを繰り返していたが、ある時数億回目かの地球の歴史の中で、流星雨のようにウロボロスの取り込んだものが地球に降り注いだ。いくつかは地表に届く前に燃え尽きたが、地上に落ちてきたそれは周囲の石を金に変えていた。かつて賢者の石と呼ばれていた物だった。
 人類は賢者の石を得たことにより、少しずつアップデートしていった。それにより少しずつではあるが知恵を積み重ねてゆき、更に数億年が過ぎた。民族の争い、人種の争い、年代の争いを次々克服し、ついに男と女が和合し、文字通り一つの人類となった。これにより人類はver2.0となった。
 人類ver2.0は新たな成長を求めるべく、ついに母なる地球に分かれを告げた。人類ver2.0はウロボロスの体内である広大な空間を旅する中で、ウロボロスが飲み込んだ色々な物と遭遇し、対話を繰り返し、時には争い克服していった。そんなやりとりを無限に近いほど繰り返すことにより、ついに人類はver∞へと至った。更に旅を続けるうちに虚無の中に一筋の光が差し込んでいた。人類ver∞はその光へと向かった。

 気がつけば、蛇の中から引っ張り出されていた。冴えなさそうな個体が見下ろしている。どうやらここは池の様である。水たまりのように星々が浮かんでいる。
 話を聞くと、池の仕切りになっている網を破ってしまって、こっちの池で管理している魚が何匹か誤って隣に流れ込んでしまったそうだ。魚を追って蛇も入り込んでしまい、それで地球が丸呑みにされてしまったという。
「私は人類 ver∞です」「∞が言いづらいんで縦にして8っつぁんでいいけ?」
 こうして人類ver∞はこの個体と共に釣った魚を捌いてもらいに彼らの仲間内へと向かった。「家におったらカカアが鬼のような目で睨むんや」という個体に「それはお辛いですね」と心から人類ver∞は共感した。

文字数:1197

内容に関するアピール

 錬金術の奥義を記したとされるエメラルドタブレットに「下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし」という記述があるそうです。これを字義通り解釈するなら宇宙が相似関係にあると読むことができます。宇宙と時間というテーマについて、太古から繰り返されている問いである宇宙と時間の無限性について、無限という単語からウロボロスを連想しました。
 本作ではウロボロスによって無限の時間と賢者の石を得ることで、人類として究極ともいえる存在に進歩した(バージョンアップした)のに、最後に遭遇する上位次元存在が冴えないおっさんのような個体というオチが、上記の通りの「上なるものは下なるごとし」と読み替えることができるのではないかと連想しました。

文字数:321

課題提出者一覧