梗 概
家と共に生きる
ヨズアⅥでは入植者たちは生きた家とともに生活する。わたしの生まれ育った家はおしゃべりで食いしん坊な家だった。普通家が食べるものといったら、わたしたちの老廃物や生ゴミだが、わたしたちの家はお母様がご飯を作る度に床や壁を鳴らし、それを要求した。シンクに空いている家の口にご飯を一部を入れるのはいつもわたしの役目だった。その代わり、家はいつも夏や冬に頑張ってくれた。夏場は肺をきちんと動かして各部屋に風を送り、冬には体温をあげて部屋をぽかぽかにしてくれた。
わたしは今日そんな家を離れる。我が家は針羊の群れを疫病で大量に失い、家を生かし生活を続けるには他家の支援を得るしかなかった。
家の中枢神経が格納された大黒柱に抱きついて別れの挨拶をした後、わたしは自分の部屋を切り離すために最初の一刀を入れる。それを皮切りに一家総出でわたしの部屋を切り出し、傷口を処理して多脚多腕トレーラーに積み込む。そして、ナイフ、弓、ツェルトコート、婚礼の儀式用の服と毒といった最低限の嫁入り道具を部屋に入れる。
わたしは多脚トレーラーの助手席に乗り、車は出発する。嫁ぎ先へ何度も部屋を運んだという運転手からは屋敷で婚約者が何人も死んでいるという警告を受ける。
屋敷の玄関でわたしを待っていたのは物静かなロボットの執事だった。執事は接続されたわたしの部屋まで迷路のような屋敷の中を案内する。わたしは屋敷を歩くうちにすぐにどこが玄関だったかわからなくなってしまう。執事ロボットからは鍵のかかった部屋にだけは入らないように警告される。
屋敷は大量の部屋が接続されていたが、人気はなく、屋敷の床や壁が住人の位置を探るために発するコーン、コーンという音だけが屋敷の中に響いている。
わたしは屋敷の死体のような寒さと静けさから逃げ去るために、自分の部屋に逃げ込む。接続された部屋はしばらくはもとの家の性質を保つため、部屋の中は家にいたときのように暖かった。
屋敷で特にやることもなかったわたしは部屋の中にあった方位磁石とノートを片手に屋敷の中を歩くことにした。多くの部屋は鍵がかかっていたが、いくつかの部屋は鍵が開いていた。そしてそれらの部屋はどれもものが残されたまま、埃が積もっていた。接続された部屋が少しずつ同化し、室温が下がって行く中、わたしはある部屋の一室で屋敷の住人の日記帳を見つける。それらを自室に持ち帰り、読み進めると、屋敷が大病を患った後に日記は止まっていた。
そして、結婚式の日がやってくる。わたしは婚礼衣装に着替え、儀式のための嫁入り道具を持ち、執事ロボットに案内されたホールには屋敷の大きな口が開いていた。ロボット達は屋敷自身を屋敷の当主として認識して、屋敷の存続のために新たな部屋を延命のために接続し、当主の婚約者を屋敷自体に食わせてたのだ。わたしは儀式で燃やすはずだった毒をその口に投げ込み、ロボットから逃げるが、すぐに屋敷の中で迷ってしまう。だが、屋敷の異変を察知したわたしの部屋が叫びだしたことで、わたしは自分の部屋にたどり着き、部屋を切り離したときのナイフで壁を裂き、バッグをつかんで外へ逃げ出す。
屋敷が急速に枯死していくのを見ながら、わたしはこれからどうしようかと考えていると、近くに脚の残るテントサイズの家の幼体が気づき、わたしはその個体にエサをやり、そしていっしょに歩き出した。
文字数:1390
内容に関するアピール
当初、『 ぼくらはそれでも肉を食う 』という人とペットや家畜、実験動物との関係について書かれた本を読んで、それをもとに書こうと考えていました。
本の内容自体は面白かったのですが、どうしても思いつくアイデアが既にありそうなテーマから抜け出せず、結局それとは関係なしに読んだシャーリィジャクスンの『ずっとお城で暮らしてる』に影響を受け、前々から考えてた生きた家というアイデアを屋敷ものに突っ込んでストーリーにしてみました。
実作を書く上では家の生態とそこでの暮らしでの婚礼の風習についてもう少し詰めて仕上げたいと考えています。
文字数:271