梗 概
島の子とその相棒たちと東京の子
「東京の子だけイソギンチャクと一緒に学校行かないの?」
青葉は帰って来た母親を待ち構えて言った。母親も出勤初日だったが、青葉とは違いどこか楽しそうだ。
「アンマ(お母さん)、わっちはどんなにだってかい?」
母親は島に帰ってから、標準語を使わない。青葉には意味の分からない方言もある。アンマは夕ごはんをちゃぶ台に並べている。潮気のある風が居間を通り抜けた。波音も近くに聞こえる。
青葉は一日を二人に報告した。
20人もいない全校生徒の前で挨拶したこと。児童が色とりどりのイソギンチャクを肩や帽子にくっつけていたこと。マイソ、とイソギンチャクを呼んでいたこと。授業中も給食中もマイソと一緒だということ。児童がマイソの接着面を指で優しくつつくと、もそもそとマイソが動き始めること。マイソの場所移動は何分もかかるのに、どの子もいらいらせず、むしろ楽しそうに眺めているということ。休み時間に東京の話を聞かれたこと。家の場所も島に来た理由も既に全員が知っていたということ。
校庭には大きなガジュマルの樹があること。そこにはケンムン(河童のような妖怪)が棲んでいること。ケンムンは相撲が好きで、子どもたちと取っ組み合いをしていたということ。下校のときにはランドセルにマイソを付けるから、校庭がランドセルとマイソの色で溢れて動く花畑みたいだったということ。
青葉は一生懸命話す。おかずは苦瓜と島豆腐の炒め物で、残そうとするとアンマに叱られる。母親はアンマに青葉の父親の悪口を言っている。
青葉は1学年上の6年生の夏記と仲良くなる。夏記のひときわ燃えるように赤いマイソがかっこよく見える。青葉は夏記の目を盗んで夏記のマイソに勝手に触る。痺れるような痛みがある。夏記は青葉を咎めず、「もし犬でも懐いてる人以外には吠えるがね?」と言う。夏記が赤い触手の中に手を入れると、触手が夏記を包むように動く。そのうねりが楽しそうだというのが青葉にもわかる。
自分もマイソが欲しいとアンマに泣きつく。アンマは夜に青葉を小舟に乗せ、沖へ出る。イソギンチャクの巣まで連れて行ってくれる。小舟から箱眼鏡で水中を覗く。月光も届かない。ライトで照らすと、群れが海流にそって体を揺らしているのが見える。青葉はときめく。振り向くと、アンマは厳しい顔をしている。「マイソとの縁は一生よ、結んでしまえば一生よ。やー(あんた)の親みたいに途中で縁切りちばできんのよ」それでもいいと青葉は思う。群れから離れた場所にいる水色のマイソを青葉は連れて帰る。初めは懐かず棘を出していたマイソも、一緒に海へ行ったり、ケンムンと相撲を取っているうちに、青葉と気持ちが通じ合うようになる。
秋深くなった頃、父親が青葉と母親を迎えに来る。父親に会えて嬉しいと思うも、マイソを置いていくように言われ、迷う。しかし両親と離れアンマと島に残ることを選択する。マイソと一緒に。
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内容に関するアピール
うちの子(猫)を迎えるとき、「この子が死ぬまでずっと愛せるのだろうか」と怖くなったことを今でも覚えています。杞憂でしたが。
さて、イソギンチャクは現実世界でも飼えるだろう、というツッコミに対しては、もう黙るしかありません。
「ポンポンみたいなイソギンチャクをくっつけている小学生がわらわらいる島の小学校」という絵面が脳内にわいたため、その力には抗えませんでした。ちなみにケンムンは校長先生に餌付けされているという裏設定があります。体育要員ですね。
また、今回も聴講生の縦谷痩さんにご助言を頂きました。ありがとうございます。
リンク先の子を知ってから、可愛くて可愛くて、私も連れて歩きたい! と思ったので、お話にできて嬉しいです。
「引っ越しても一緒! ヤドカリの貝殻にくっつく新種イソギンチャク「カルシファー」」https://nazology.net/archives/108883
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