梗 概
ユーレイ団地と、落書きの宇宙
「宇宙はなぁ、でっけえ目ン玉なんだよ。わかるか?」
酒臭い息を吐きながら守屋さんは、ぼくと直哉に説明する。
「宇宙のはじまりの場所に、でっけえ網膜があって、宇宙の外から来る光を受け止めてんだ。そいつをどっかの誰かが3次元に解釈したのがこの宇宙なんだよ」
「誰かって誰?」
「そいつに会うために、ここで研究してる」
学校の終業式のあと、ふたりで探検に向かった裏山のユーレイ団地で、ぼくたちは守屋さんに出会った。
年は爺ちゃんと同じか、それより少し若いくらい。少し汚い身なりをしていたけれど、面白い人だ。
変なガラクタを組み立てながら「世界の外」と通信するための装置を作っている。
「宇宙の外から見たら、俺たちは地面に書かれた落書きみたいなもんだ。そいつをちょちょっと書き換えてやれば、運命だって変えられるかもしれねえ」
不思議な宇宙の話に興奮した直哉は、助手になることを申し出る。
僕も付き合うことになる。夏休みの自由研究という名目だ。
家に帰ると、母がどこへいってたのと聞き、ぼくは直哉と遊んでたと答える。
母は「ふうん」と言って、あまり遅くならないようにとだけ釘をさしてくる。
夏休みがはじまる。
塾の夏期講習があるので、ぼくはいつも直哉よりもあとに参加する形になる。ふたりはどんどん仲良くなり、ぼくの知らない二人だけの秘密を共有するようになっていて、ぼくはつまらない気持ちになる。一緒に行く夏祭りと装置の稼働実験の日が重なったことで、ぼくたちは初めて喧嘩をする。
夏祭りの日。ひとりで祭りに行くと、担任の笹田先生に会う。「直哉さんと一緒じゃないのか」と聞かれ、ぼくは泣いてしまう。
神社の境内で、泣き止んだぼくは直哉と喧嘩したことを話す。話がユーレイ団地の守屋さんに触れたとき、先生の顔色が変わる。装置の稼働が今日であることを伝えると、先生は僕を連れてユーレイ団地へ向かう。
団地につくと悲鳴が聞こえる。僕は先生より先に走り出し、目を血走らせた守屋さんと、服を破られて泣いている直哉を見つける。気が付くと、ぼくは守屋さんにとびかかっていた。驚いた守屋さんは、遅れてきた先生と警察に取り押さえられる。
先生が警官に礼を言うと、警官は答える。「子供の未来は宝ですから」
守屋さんが叫ぶ。「なんで、あいつらはよくて、俺はやっちゃいけねぇんだ!俺がガキのころは許してくれなかったくせに!」
先生は聞くなというが、ぼくはなぜか彼から目を離せなかった。
※
いろんな人に怒られたあと、ぼくと直哉は学校の屋上で仲直りをする。
直哉は、守屋さんに「おれは未来から来たお前だ」と伝えられていたらしい。
実験に付き合えば、いちばん知りたいことを教えてやる、とも。
なにをきこうと思ったの、ときくと、彼は目をそらして「そんなことより」とはぐらかす。
「大人になったら、俺、あんなふうになるんかな」
ぼくは笑っていう。
「なるわけないじゃん」
「だよな」と直哉も笑う。
「未来なんて、わかりゃしねーよな!」
ぼくたちは手をつないで、屋上を降りていく。
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内容に関するアピール
ただしい人より、ただしさに取り残されてしまった人のことを、どうしても考えてしまう。
変えられない過去と、生まれてしまったこの世界をどう肯定するか。
生きるということの大きなテーマなのかな、と私は考えます。
大きなギミックも、スケールの大きな話でもありませんが、自分の中では間違いなく、「時間」と「宇宙」をテーマにしたSFです。
というわけで5年ぶりです。やっていきましょう。がんばります。
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