梗 概
顔は見えない
会社をクビになった。
民間人でも富裕層であれば気軽に宇宙旅行へ行けるような近未来。
低収入かつ長時間労働に勤しんでいた無職の青年ミユキは、好転の見えない近況に、人生の行き詰まりと漠然とした不安を感じていた。
気分転換に外出した先で、ミユキは自称占い師に声をかけられる。
曰く、貴方は運命の相手と50年後に出会うでしょう。
生きているかもわからない先のことを言うなど詐欺ではないか。
馬鹿馬鹿しいと帰宅した矢先、これ見よがしにポストへ郵便が入っている。封を開けてみれば、懸賞に当選したというものであった。懸賞に応募などしただろうかと疑問に思いながらも、現実逃避の一環でしたかもしれないと思いなおす。ミユキには現実逃避として、突拍子もなく普段しない事をする悪癖があった。そういう時はだいたいが繁忙期であるから、忙しさで行為を忘却してしまうことも、また往々にしてあった。
内容を検めると、宇宙5年旅行をプレゼントと書いてある。ただし、旅行期間は5年でも帰還時の地球時間では出発時から50年経過すると書いてあった。
50年、という文字に着目する。50年後の地球。50年後に会う運命の相手。
占い師の言葉が急激に信憑性を増したように感じられた。嘘のように出来過ぎた流れも、どん詰まりだった人生の転換点だと信じて、早速旅行の準備に取り掛る。ミユキの心は希望を持ち始めていた。
出発日となり、意気揚々と宇宙船に乗り込むが他の乗客を見かけることはなく、遂にそのまま宇宙へ出発した。
宇宙へたどり着いた頃に、航路案内と艦内は無人制御である旨を説明する映像がモニターに流れ始める。そしてそのまま、宇宙旅行に至るまでの占い師も懸賞も全て仕込みの嘘であり、あからさまに怪しい話に引っかかったのがミユキだけだったことを嘲笑う映像が流された。航路だけは間違えないため、5年間楽しむよう告げられて映像は途絶える。
こうして孤独な一人旅が始まった。
外の景色を見ようにも亜光速下では何も見えず。泣いても叫んでもどうにもならない。自分以外の声と言えば、時々航路案内のために流れる機械音声だけだ。話かければ、ガイダンスを行ってくれるため、唯一の暇つぶしが航路案内を聞くことになった。
時間がどれほど過ぎたのかも分からなくなった時に幻聴が始まった。機械音声が航路案内以外の言葉を喋るようになったのだ。それが幻聴だとミユキは気づいているが、孤独でなくなるならば何でもよかった。幻聴を友人として見るようになり、そしてコミュニケーションが始まった。
5年後、いよいよ帰還まで残り数時間とアナウンスがあった。幻聴が帰還後は何をしたいと囁いてくる。地球のご飯を食べて、それから運命の相手でも探すと答えれば、自分が相手になろうか、と聞いてくる。友人であるだけで充分だと返して、席に着く。モニターに映し出された景色には懐かしい青い星が見えていた。
文字数:1196
内容に関するアピール
騙されて一人宇宙旅行に出た主人公が孤独に耐えきれず、イマジナリーフレンドと会話しながら5年後(50年後)の地球に帰還する話です。
どんなに荒唐無稽なことでも、追い詰められた状況下ではそれに縋り付きたくなる時はあると思います。
また、人間は二進も三進も行かない時に判断材料が揃うと、嘘でも真実だと思い込んでしまい、疑う事が頭から消えて信じ切ってしまいます。
そのような状況は他者から仕向けられるだけでなく、自らそうならざるを得ない時も起こりえます。そうした時は、どうにもならずに突き進んでしまうこともあるでしょう。
本梗概は、どのような状況下であれば怪しい話を信じ込ませられるか、また、助けも来ない空間に一人ぼっちになってしまった場合、人はどうなってしまうのだろうかという発想から話を拡げました。
文字数:347