梗 概
ヤりたいだけじゃん?
ミイナは20歳だが見た目は老婆。数年前、新種の脳炎ウィルスに感染し、概日リズムが24時間周期ではなく3時間周期になったことで急速に老化する稀な症状に苦しんでいる。ミイナは新しい治療を受けるために病院を訪れていた。待合室のテレビで月の資源開発に関するニュースが流れている。
ミイナの隣に座る男が月の不思議な体験を話し始める。彼は掘削工事をしていた時、貯水湖に落ち、透明な生物に救われたのだという。ミイナは医者に呼ばれて治療薬の注射を打つ。
1週間後、ミイナの概日リズムは月の公転周期である27.3時間になっていた。医者はミイナに、治療を続けて通常の24時間周期に近づけることを誓う。その夜、ミイナは自宅で悲鳴を聞く。外を見ると、人々がえのきみたいな生物と戦闘を繰り広げている。両者とも発光している。ミイナは元セフレのくろちんと出会い、ともに井の頭公園に向かう。
井の頭公園は光る人たちの軍事拠点となっていた。ミイナは、くろちんたちが浮遊霊でえのきは月の民だと知る。月の民は人類の資源開発で住む場所を奪われ、東京に入植するための戦争を仕掛けていた。(拠点は渋谷駅。)ミイナは自分が月のリズムを獲得したことで彼らが見えていることを察する。(だが触れられない。)
ミイナは月の民の捕虜とも交流を深める。公園には多くの光る動物たちがいる。象が、体が損傷した浮遊霊を鼻で吸っては尻から光の糞を落とす。音楽堂のステージでうずたかく積み上げられた糞が上の方から消えていく。
戦況が悪化する中、ミイナとくろちんが月明かりを受けた池の水際でいちゃついていると、ミイナがあやまって池に落ちてしまう。くろちんが引き上げると、二人は触れ合えることに驚く。急にくろちんがミイナを押し倒す。ミイナは髪の毛を掴まれ、犯されそうになる。涙を流し抵抗するミイナにくろちんは「ごめん」と走り去る。
翌日、ミイナはくろちんを探すが見当たらない。数日後、白髪が混じった糞を音楽堂で見つけ、ミイナは月の民との調停交渉に臨むことを決意する。月の民の捕虜を連れて井の頭線渋谷行きの最終電車に乗り込む。動物たちも乗ってきて電車は光る動物園のよう。
渋谷駅で将軍と面会した瞬間、強烈な脳内の律動にミイナは意識を失う。目を覚ますと光に包まれた荒涼とした大地にいる。どうやら月らしい。周りには無数の幽霊。さっきまで一緒にいた動物たちもいる。みんな徐々に消え始める。ミイナはくろちんを見つける。消えかかったくろちんは先日の謝罪と愛の告白をする。ミイナが受け入れるとくろちんは「最後におっぱいだけ見…」と言って消える。月は成仏霊が宇宙に還る(無に帰す)ための場所だと知ったミイナは再び意識を失う。
目を覚ましたミイナは将軍に、成仏霊が宇宙に還る場所を東京に作れないかと尋ねる。将軍は、月に隕石が衝突した際に地球に降り注いだ月の石を大量に集めることができれば可能だと言う。ミイナは、ハードな任務だが浮遊霊総動員でやるしかないと決意する。井の頭公園に帰るため、ミイナはマークシティの横断歩道でタクシーに手を挙げた。
文字数:1271
内容に関するアピール
「概日リズム」は簡単に言えば体内時計ですが、正確には脳の視交叉上核で時間タンパク質が制御する分子時計を指します。この物語は「もし24時間周期ではない律動を持つ人間がいたら」というのが着想です。また、何かを得るためには何かを失わなければならないというある種の教訓に対して、「人間が月の資源開発(環境破壊)を進めることで失うものがあるとすればなんだろう」を考え、物語に反映させました。
個人的な課題は、SF的な展開を作ることでした。設定をSFにしても、テクノロジー系のアイテムを使わない場合、キャラクターが人間なので、肉体的であったりヒューマニズムなものを考えがちで、どこか既視感のある展開になってしまいます。そこを乗り越えたいと思い創作しましたので、ぜひアドバイスをお願いします。
タイトルは「ヤりたいだけじゃん?」「幽霊郷」「やらしい成仏」の三つを考えたのですが、どれがいいでしょうか?
(398文字/以下、参考文献除く)
参考文献
◆ニュートン別冊 相対性理論から、タイムトラベル、原子時計まで わかる「時間」(株式会社ニュートンプレス)2009年9月15日発行
◆大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 分子科学研究所 「時計タンパク質から概日リズムを生み出す巧妙な仕掛け(加藤晃一グループら)」
https://www.ims.ac.jp/news/2019/06/03_4362.html
◆PDBjの生体高分子学習ポータルサイト PDBj入門 「概日体内時計タンパク質』
https://numon.pdbj.org/mom/97?l=ja
◆体力科学 第69巻 第5号 401-411(2020)「時間栄養学」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/69/5/69_401/_pdf/-char/ja
◆心理科学第25巻第1号 「幼児期における時間的拡張自己と「心の理論」—時間的視点からの理論的考察—」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jraps/25/1/25_KJ00003397985/_pdf/-char/ja
◆オレオサイエンス 第1巻第7号(2001) 「時間治療とパルス薬物放出製剤」https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/1/7/1_765/_pdf/-char/ja
◆Japanese Psychological Review 2013,Vol.56, No.2, 201-215 「カイロスとクロノス —脳の中の 2 つの記憶時間—」https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/56/2/56_201/_pdf/-char/ja
◆国立天文台(NAOJ)「月の満ち欠け/周期」https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/B7EEA4CECBFEA4C1B7E7A4B12FBCFEB4FC.html#:~:text=平均的な周期は,複雑に変動します%E3%80%82
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