Back to work, Girls!

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梗 概

Back to work, Girls!

目の前に現われた人型のパネルをめがけ手にした銃を撃つ。四枚のうち二枚のパネルに弾が当たってパタンと倒れた。そこに印刷された人相が目に入って喉の奥がキュッと苦しくなるが、倒れたパネルが復活するとすぐにまた狙いを定める。うんざりする一歩手前まで同じことを繰り返していると、目の前からパネルが消えた。VR空間内の装いが一変すると、私は診察室で心理士と向き合っていた。そしていつもと同じ質問をされる。「ご気分は」「悪くないです」「彼らに対するお気持ちは」「変わりません」
ここは心療内科で、私はいわゆる「仕事でメンタルをやられた人」だ。療養の過程でどうしても相手への怒りや憎しみが消えずに苦しんでいる。ここの療法では自分の正直な感情を仮想の相手に繰り返しぶつけることで、生々しい感情を風化させることをゴールとしていた。しかし私は長い間同じところで足踏みをしていた。あと一ヶ月で新しい職場に再就職しないといけないのに。
そこで担当の心理士から次の対策を提示される。それは「他の患者と復習の対象を交換する」というものだ。紹介されたのは私と同年代だが性格は正反対の女性。少しも共感できなかった。案の定、最初の治療の開始時に彼女は私が抱えている悩みを一笑に付した。「こんなやつら、現実で尻を蹴っ飛ばしてやれば良かったのに」
最初の治療で彼女は見事に私が憎いと思っている相手(を模したもの)をバットで殴りつけて成敗していく。グチグチ怒りっぽい上司、部下の手柄を横取りするリーダー、仕事をしない窓際族、決めつけが激しく陰口ばかりのお局さん……一仕事終えた彼女は「対象が多すぎる」とこぼすが、おかげで私の方はいくらか気分が良くなっていた。バットを振り下ろしながら、彼女が一人一人に的確に罵声を浴びせてくれたからかもしれない。
次は私の番だった。相手は彼女の実の父親。今はもう故人だが、幼い頃から厳格で、あらゆることに細かく口を出してきたのだそう。あまりの威厳に、仮想の存在だと分かっていても身がすくんだ。しかし、彼女が言われて嫌だったことを繰り返し発するようにプログラムされたそれを見ていると次第に私も腹が立ってきて、気がつけば徹底的に相手を痛めつけていた。
一度目の治療が終わると、二人とも症状に改善が見られた。自ら手を下すより、本当は誰かに苦しみを共感して欲しかったのかもしれない。同じ治療を繰り返すことで、二人ともほとんど問題は見られなくなった。だが、最後にもう一つだけ望みが残っていた。それは私と彼女とで「タイマン」でぶつかり合うこと。それによってお互いに自分が嫌いな自分を粉砕し、完全にすっきりとすることができた。
晴れ晴れとした気持ちで二人は最後の診療を受け、完治の太鼓判をもらう。これで新しい職場に復帰できそうだ。
彼女とは礼を言い合って別れを告げた。
一週間の休暇の後、二人が同じ職場だったことが判明するのはまた別のお話。

文字数:1200

内容に関するアピール

会社での仕事が好きです。好きだからこそ色々ありました。楽しい思いをすることの方が多いのですが、一方で自分の中で記憶ごと粉砕したい出来事なんかもあったりして、やるなら今しかない!と思って梗概のテーマに選んでみました。夜寝る前にふと思い出してしまって今だにじくじくする思いを実作で愉快に昇華できたら儲けものだなと思います。

文字数:159

課題提出者一覧