惑星チンチロ、3分18秒

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梗 概

惑星チンチロ、3分18秒

ボロボロのアンテナ、置かれたモニター。画面にはサイコロの目が映し出される。

2年2ヶ月ごとに最接近する火星と地球。いまこの瞬間だけ、火星・地球双方のラグランジュ点経由ではなく、惑星同士の直接通信が行われ、爆発的にトラフィックが増大する。検閲のないその通信に載って、火星・地球間の富の交換である<賭場>が開帳されるのだ。

主人公の環と友人の楓は、火星の開拓ドームに住む労働者だ。友人の楓と、手製のアンテナを使って直接地球との通信をし、賭場に参加していた。二人は火星の地下で空調保守をするエンジニアだ。毎日ホコリにまみれながら生活し、毎日太陽の近くに見える地球の光を見つめながら、複雑な思いを抱えて生きてきた。

勝負には惑星間ブロックチェーンが利用される。最接近に近いいま、1ブロックの通信にかかる時間は3分18秒である。ルールは惑星チンチロ。地球側と火星側が勝負をする。自分の惑星側にサイコロを二個、相手の惑星側へサイコロ一個を振り、双方の目で勝負が行われる。

地球参加者のアドレスを見て環は驚いた。アドレス0xFE8。ハンドルネームを持たないギャンブラーであり、かなりの額を保有する資産家でもある。特集記事を読んだことがある。火星開拓民に対し、賭け金を巻き上げるたびに嫌味なメッセージを送りつけると聞いた。

楓と環は、0xFE8から獲ってやると心に決める。まず自分のウォレットの残高を意図的に少なくする偽装を行った。チャンスは地球側が親のタイミングである。そこで、これまでコツコツ貯めながらもオンチェーンに分散していた資金を一気に集め全財産を投入するトランザクションを組んだ。試合を成立させるには相手側にも残高が必要で、この額を受けられるのは0xFE8しかいない。

出目を出すための、一度目のサイコロ振り。火星側の乱数は、火星側として5と1、地球に対し3を送信。まずまずの出目であるが、もし地球側から5が送られてきてしまうと火星側の出目が最弱の1となってしまう。通信が送られてくるまでの3分18秒、環と楓は固唾を飲んで見守る。結果、火星側は目なしとなり、地球の出目が5で確定した。この時点で、楓と環が高額を賭けたことも相手に伝わった。しかも相手の出目は5。最悪のスタート。手足が痺れる。

二回目。火星側はまたしても目なしとなった。メッセージが添えられている。「良いチャレンジだ。その金はありがたく使わせてもらう」。二人は憤慨する。

そして三回目。火星側の出目は2と2。ここで目が出なかった場合、地球が勝利してしまう。しかも、勝つには地球側から6か2が送られてくるしかない。確率は33%。手足が震え、祈るような3分18秒。
出目は2。三倍付けでの勝利。全財産が一気に三倍となる。喜ぶ前に力が抜けてしまい、その場にへたり込む環と楓だった。

勝負のあと、0xFE8から通信が届く。お前たちのログを見たが、本当に全財産を賭けた勝負だったようだな。同じギャンブラーとして忠告するが、こんな勝負は二度とするな。もしその金を今後も増やせたのなら、次の最接近である2年3ヶ月後に合わせて、地球への便でこちらに来ないか。話をしよう。

楓と環は顔を見合わせたあと、地球を見上げるのだった。

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内容に関するアピール

この数年、ブロックチェーン上でトランザクションを組むことが多く、その経験をもとに書いてみました。

よろしくお願いいたします…!

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