梗 概
偽装する乙女
三年前、突如海から異形の怪物が次々と湧いて出てきた。異星人が用意した地球人駆逐生物とも、氷河期に海に潜った古代生物とも言われていたが詳細は不明。唯一分かることは、怪物らは楽しむように人間をいたぶり、殺戮を繰り返すということだけだった。人類は国軍を結成し、怪物と全面戦争を始める。
現在。ユイは怒りに震えていた。新作のグリッターアイシャドウを取り出した瞬間、触手が伸びてきてユイの手からシャドウを叩き落したのだ。まだ一度も使っていなかった。無惨にも地面に砕け散っている。最高に盛れるはずだったのに。
「ふざけんな、ぶっ殺す」
怪物に立ち向かおうとしたユイを親友のクルミが止める。
「死ぬから」
怪物はおそらく口であろう部位を醜く歪め甲高い音を発した。笑っているようだ。ユイは怒りを叫び散らす。
「クルミ、アタシ決めた。国軍に入ってアイツをぶっ潰す」
人手不足の国軍は若い兵士を欲していた。機動装具を着こなせば力や動きは増幅補助できる。ユイは国軍日本支部の門を叩く。クルミも嫌がりながらもユイに付き合って国軍へ入隊した。
空気を読む系ギャルである二人は機動装具の性能を最大限に引き出しながら、怪物の動きを読み、倒していった。二人には兵士としての才覚があった。勝機を見出した日本支部はギャルのみで編成された乙女隊を結成する。乙女隊の活躍で人類は劣勢を挽回する。
やがてユイとクルミは因縁の相手である触手怪物と対峙する。クルミがライフル銃を放つも怪物の硬い皮膚に弾かれる。ユイが対怪物ランスを構えて近寄るも、しなる触手が死角から飛んできて吹き飛ばされる。ユイたちは撤退を余儀なくされる。
国軍も傍観していた訳ではない。光学迷彩スーツを完成させていた。失敗した乙女隊ではなく精鋭部隊の機甲隊が挑む。しかしスーツ界面の揺らぎが目立ち光学迷彩が有効に働かなかった。機甲隊も敗れる。揺らぎを少なくするにはXY平面だけでなくZ軸方向にも適切な厚さでメタマテリアルを重ねる必要がある。司令部に重い空気が流れるが、ユイは首を傾げる。
「なんで落ち込んでんの? 要は盛ればいいんでしょ? アタシの得意分野だし」
ユイの指示に従って技術部は急ピッチで光学スーツに用いられているメタマテリアルを粉体化させた。光学スーツを着たユイは部位ごとに最適な厚さに粉体を盛って、固めていく。
「透明感やば。アタシ存在してないじゃん」
ユイの手によって光学迷彩スーツは真の完成に達した。
触手怪物を前に機動装具を着たクルミが距離を保ちながら銃で応戦している。準備が整うと銃を捨て近寄る。怪物は前方に触手を伸ばす。その瞬間、透明化したユイが背中に隠し持っていたランスで怪物を突き、消滅させた。あっけない幕切れだった。その後、乙女隊は各々のメーク技術を駆使して各人に最適な光学迷彩スーツを完成させた。こうして生まれた最強の部隊は、全ての怪物を倒すことに成功する。
文字数:1200
内容に関するアピール
就職活動の時期、学生時代の研究テーマの延長線上で化粧品会社に就職したいと思っていました。ちょっと変わった友人にその旨を相談したら、研究だけじゃなくてちゃんと化粧の事知っときな!と、美容部員のお姉さんにメークをしてもらう機会を設けてもらいました。どきどきしながら下地、リキッドファンデーション、アイシャドウ、ビューラー、アイライン、マスカラ、リップ、チークを乗せてって、というか工程多すぎないですか? 半顔はそのまま、もう半分はフルメーク。あまりの透明感、美しさに冷静さを装いながらぐっと感動していました。そしてぼんやりと、ああ男性でも化粧品好きでいいんだなと思ったことを今でも覚えています。今の十代、二十代だと男性でも気軽にベースメーク出来る風土が出来つつあって業界にいる者としては嬉しい限りです。
そんな思い出に浸りながら就活と化粧品の楽しさをSFに出来ないか試みました。
文字数:387