雨をあつめに

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梗 概

雨をあつめに

ラビたちの生存領域は狭い。深く潜れば水圧に潰され、浮上すれば身体が破裂してしまう、らしい。町ではそう習っている。とりわけ敏感肌のラビは環境の変化を好まない。

ラビの町は美しい。どこまでも見通せる澄んだ水中に、色とりどりの岩や貝殻、海藻などで作られた家々が浮かぶ。ラビは体質を活かし外敵の接近を見張っている。

ラビの見張り場に幼馴染のサカが大きな荷物を背負って訪ねてくる。サカは妹フニの病状を話す。フニは後天的な呼吸器不全に陥り、深海から立ち上る気泡「雨」がなければ生きていくことができなくなった。この町に時折降る雨だけではもうあまり時間がない。ラビはフニとサカの姿を最近見かけなかった理由を知り動揺する。サカはラビに町の外へ雨を集めにいく手伝いをして欲しいと願う。町の外へ出かけるという危険な行為にはラビの敏感肌で環境の変化や外敵を察知する必要があった。

ラビたちは長老の許しを得て旅に出る。「当てはある」とサカは言う。それは冒険家オステガの語った物語。町の外には温かい海域があり、そこではとめどなく雨が噴き上がっている。少しでも温かい方へ、ラビは方向を決める。

町から遠ざかるにつれ、世界は色を失っていく。サカは鞄から鉱石を取り出し、歯で噛み砕いた。光が溢れだす。つられて小魚が集まり輝き出す。ラビは町の外へ出たことを実感する。ふたりの後ろには道標にサカが残した光る鉱石の粒が漂っている。

「行こう、雨をあつめに」

アメヲアツメニ。それは何かの呪文みたいだとラビは思う。

そしてふたりは温かい海域へ辿り着く。とめどなく湧き上がる雨。しかしラビの感覚はそれ以上近づくことはできないと告げていた。ラビを振り切り近づくサカは肌が爛れ、やがて意識を失う。友を助けに近づこうとするラビだが、サカよりも肌が弱いためすぐに肌が爛れだしたどり着くことができない。雨に飲まれ浮上していくサカを、ラビはただ見つめていることしかできない。

絶望を抱えラビは道標を頼りに帰途につくが、爛れた肌は感覚が鈍り、肉食魚に襲われる。逃げのびるが怪我を負いどこかわからない真っ暗な海域で漂うラビは、頬にあたる感覚に気がつく。光る鉱石を割ると、皮肉にも雨が降り注いでいた。ラビは雨と共に遠ざかるサカの姿を思い出し、雨の発生源へ向かう。アメヲアツメニ。その呪文を胸の内で繰り返す。身体が軋むのも気にせずラビは雨の中を潜る。意識が霞む。

気がつくと、ラビは巨大な生物の横を、ラビと同じくらいの大きさの魚に連れられていた。魚は2匹で、ポチとタマと名乗る。そして大きな生物のことを先生と呼んだ。ラビは先生が頭から雨を降らせていることに気づく。事情を話すと、先生と2匹は一緒にラビの町を探してくれる。

町へ帰り着いたラビは、雨をフニのもとへ届ける。そしてサカの最期を伝える。鋭い感覚を失ったラビは、サカの道具を譲り受け狩人となり、先生と話して雨の管理者も請け負う。

 

 

文字数:1200

内容に関するアピール

気泡が雨のように降り注ぐ海の中の世界を書きます。頭の中では綺麗です。雨じゃないですけど、雨という言葉がたまたま気泡に当てはめられている世界なので、雨です。

ベタな冒険物語が書きたい気持ちです。旅行どころか講座にも初回以外行けていないからだと思います。生きるのにいっぱいいっぱいな状態で受講している現状が悔やまれます。小説を書くには安定した収入が必要だと思いました。

文字数:181

課題提出者一覧