海の果てには天の星

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梗 概

海の果てには天の星

少年は雨を待っている。もうすぐこのあたりに史上最大の「豪雨」が起きるはずだった。期待で全身の鱗が逆立つ。
この星の地表は熱く、大気は重い。環境に適応した人々はトカゲのような姿をしている。海は空の上にある。大気圏から水が逃げないよう空中に張り巡らされるように建設された施設が水を集め、時々地上に水を戻すようになっているのだ。近頃はその量が十分ではなくなりつつあったが、トカゲたちはこの施設の管理方法を知らない。過酷な環境で暮らすうちに、この星に入植した当時の技術はすっかり失われていた。
やがて「豪雨」の時がきた。この星の雨とは、地下の水が天に向かって吹き上がるものだった。少年は「傘」を使って雨の勢いを借り、うまく舞い上がることで奇跡的に空中施設に辿り着く。
少年はこの施設に住むと言われる「人間」に会いたかった。そこでは惑星入植時の姿のまま、鱗を持たない人々が暮らしていると聞いていたからだ。他のトカゲに比べて鱗が薄い少年は、自分の母親が「人間」なのではないかと考えている。だから、ここへ来れば母に会えるかもしれないと思っていた。

しかし、施設に人間の姿は見当たらなかった。代わりに水路を自在に行き来する人魚の姿があった。施設の維持はその人魚たちがおこなっているらしい。そのうちの一人が少年の侵入に気がつくが、見咎めはしない。それどころか施設中を案内してくれる。少年は水路で繋がり合って空中に点在する各施設をくまなく探索したが、やはりどこにも人間はいなかった。最後にひときわ大きな貯水槽へと辿り着き、水槽の底から水の中を泳いで頂上を目指す。水面に浮かび上がると、頭上には夜が広がっていた。そこから見る星空は地上からとは比べものにならないほど澄み渡っていた。どうやらここに残った人間たちは地上へ降りた人々のために施設を半永久的に稼働できるようにしたあと、また宇宙へと戻っていったようだと悟る。
人魚の手引きで地上へ戻す水の量を少し増やすよう設定を修正してから、少年は地上へ戻ることにする。すると人魚が、自分も一緒に地上に行ってみたいと言い出す。少年は承諾し、二人で一つしかないパラシュートを使って地上へ戻ることにする。だが人魚の身体は地上の熱と気圧に耐えられる作りになっておらず、空中で少しずつバラバラになってゆく。人魚の身体は機械でできていた。「大丈夫、しばらく施設と通信ができるから、その間に地上の色々なところへ連れて行ってよ」

少年が地上に降り立ったとき、施設から一緒に落ちてきた水が蒸発して虹を作っていた。彼は手の中の人魚と一緒に旅をすることにする。先々の地で、今度は自力で施設に辿り着ける方法を探すつもりだ。そしていずれは、施設の先、あの水槽の頂上よりもっと高い場所、空の向こうの星々に辿り着く方法を知りたい。そこまで行けば母も見つかるかもしれない。虹の出た方角を目指して、少年は灼熱の地を歩き出した。

文字数:1200

内容に関するアピール

雨の日は家から出たくなくなってしまうのですが、せっかくなら登場人物が遠くへ行きたくなるような雨にしてみたいと思って書いてみました。

文字数:65

課題提出者一覧