晴れが続けば、もう自己紹介はいらない

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梗 概

晴れが続けば、もう自己紹介はいらない

世界三大水企業の水帝がかつて支配下においた地域、雨郷ウキョウは濾過材の原料、卯花鉱の産地だった。鳴くことで雨を降らせる鳥、リクラの降らせる雨水を飲むリ族が暮らしていた。六十年前、濾過材工場の発電設備の爆発事故のあと、全域が遺棄された。それ以来、分厚い雲に覆われ続けていて雨はほとんど降らない。

リ族は保護されたが、今や滅亡の危機に瀕していた。域外で生まれたリ族はリクラの雨水以外を飲むと苛烈なアレルギー反応を示すが、年々リクラが鳴かなくなっていた。

その原因を探るため、リ族の少年ケウは一羽のリクラを連れ、雨郷へ潜入する。記録では色とりどりの藻や苔に溢れるはずの森は渇き果て、野生のリクラは見当たらない。

二週間分の雨水を入れた水筒が心許なくなった頃、街の片隅で鳥影を見つけて追うが、毬型警備機に撃たれて廃工場の地下に転落する。

地下にはリュビアという男が隠れていた。水企業シベレス支配下の沙漠の出身で、雨を見たことがない。彼の救護キットは銃創を治せるが、水が必要と言われ、貴重な雨水を差し出す。罪人の彼は釈放と引き換えに、雨郷に水帝が隠している秘密を探りに派遣されたという。どんな罪かは決して話さなかった。

ケウの昼寝中、リュビアはリクラから検体を取ろうとするが、リクラが甲高く鳴いてしまう。ケウは彼を追うが、降り始めた白濁雨の中に消えた。翌日、ケロッとした彼はおしゃべりな毬型機、デリルと戻ってきた。デリル曰く、彼は記憶を一部失っている。ケウは彼の罪と真の目的を伏せ、リュビアが仲間だったことにする。

リクラをデリルは、橙藥トウヤオと呼ぶ。水帝の言語では、橙色の雨を降らせるからそう呼んだ。廃工場の奥で、毬型機が白卯鉱を原料に生産されていた。火事で散水機が作動すると、デリルが記憶をなくす。リュビアはノートを見て、白卯鉱は水溶性で、水に濡れば毬型機の記憶は溶けると言う。

デリルに自己紹介しなおし、鳥影を見つけて追った。鳥影を追う毬型機群が現れ、一行を攻撃した。ふたりへの攻撃をデリルが一身に引き受けながら、背中を任せ合い進み、巨大な廃屋に至る。空挺毬型機が鳥を捕まえ奥へ入った。進むと、穴だらけの廃屋の中心に沢山の衰弱したリクラが嘴を封じられ、囚われていた。

千台の毬型機に囲まれた。籠城するが、ケウの飲む雨水がなかった。リュビアが勧める水は体質で飲めない。弱っていくケウはリクラを鳴かせると言う。全員の記憶が消えるぞとリュビアは止める。ケウも迷う。

また覚え直せばいい。デリルはノートに二人のことを印字して渡す。ケウは鳥たち泣かせ、空から白濁雨が滝のように降り注ぐ。デリルも含め毬型機は目的を忘れて帰還する。分厚い雲が薄れ、続けて橙の雨が降った。それを飲むと、ケウは体質に変化を感じた。

リュビアを迎えに来た男に、彼は水帝が記憶喪失を招く雨を恐れたのと、偽リクラでリ族を支配したと報告した。男は満足し、ケウの前でリュビアの罪の内容を明かしながら、釈放を宣言する。

真のリクラと残されたケウはノートを見た。書かれた男は罪人には思えなかった。

文字数:1267

内容に関するアピール

ある瞬間の雨は現象としては一つです(誰が見ても、天気という意味では同じ)

とはいえ、見る人によって意味合いが違います。誰かにとっては忌々しい雨でも、誰かにとっては音をかき消してくれる癒やしかもしれない。それをSF的に拡張して、見るものによって意味合いが違うのを実現してみました。

  • 乾きを癒すための雨 / 仲間を忘れさせる雨
  • 初めての雨 (歓び) / 罪を忘れるための雨 / 目的を忘れないための雨 / 仲間を忘れさせる雨
  • 仲間を忘れさせる雨

最後の雨のシーンで3つの意味が重なるように積み上げて行く実作にしたいと思います。

おしゃべりな毬型ロボットは可愛い感じに書きたいと思うので、勉強します。

(I’m signin’ in the rain とかいいながら踊らせたい)

文字数:313

課題提出者一覧