バターレイン・エフェクト

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梗 概

バターレイン・エフェクト

完全環境管理都市「わかば」は,従前の管理都市とは異なり莫大な移住費用は求められない。
代わりに,自身の行動管理権限位が都市と自分で同等となっており,脳内チップによって強制的な行動制限が可能となっていた。代表的なのが夕方6時の強制広告である。
時間になるとあらゆる活動が一斉に停止し,自身の都市内での行動に応じてトラッキングされた広告がおよそ3分間の間脳内に流れるようになっていた。

「わかば」に暮らす高校生カズミはある日の広告の中に,暗がりでノイズに似た沢山の光の線がはしるだけのものを見かける。
掲載企業名も明示されない謎の広告に不可解な思いをいだき,学校内のブレインウェブに投稿すると,古典映像部に所属するサイバから自分も同じようなものをみたとコメントが入る。
古典映像部では,前世紀の制作の映像資料を3000本ほど保管しており,サイバ曰く例の広告はおそらく「雨」を表現しているのではないかとのことだった。
「わかば」では,時間経過に伴う日射量の変化は疑似的に表現されていても,雨や曇り等の天候までは再現されることはない。
前世紀にはそのような天候やそれに起因する災害もあったことは知識として知られているが,映像資料まで見たことのあるものは稀だった。
二人はそれぞれの都市活動ログを交換し,トラッキングの集計要素の共通点を見出すことで雨広告の正体を掴もうとするもようとして知れない。
時間がたつにつれ雨広告が強制広告に上がる機会が頻繁になっていき,目的の知れないその様にカズミは言いしれない不安感を抱いていた。

ある朝,カズミが登校をしようと家を出ると,突然雨が目の前に降りだした。頭上から絶え間なく流れる水滴は足元に水たまりをつくるも冷たい感覚はなく体が濡れることもなかったため,すぐに視覚情報のバグとわかったが,害することがないとわかってもさすがにうっとうしい。
上着で頭上を遮ると雨に濡れないことが分かったため,それを使いながら学校までの道のりを歩いていくと、同じように上着をかぶさったサイバと合流した。
カズミと同じように外出したらこうなったようだ。
二人は通りすがりの人々の奇異の目に晒されながら登校したが、帰るころには一段と雨はひどくなっており、とても上着ではカバーできなくなっていた。
そこで古典映像内に映っていた傘を、映像を参考に何とか一本こしらえ、二人で帰ることにした。
帰り道は見知らぬ道具を抱えて二人片寄せあい帰るさまがなおさら衆目を集め、カズミは頬が熱くなるのがわかった。同時に、それは衆目を集めたからだけではなく触れ合うサイバの肩から伝わる熱も原因だと心のどこかで感じていた。

それから二人はどちらがいうこともなく相合傘で一緒に登校するようになり、一月経つ頃には、サイバから告白され付き合うことになった。
その日に雨は止んだ。

文字数:1161

内容に関するアピール

実際の雨ではなくて疑似的な雨的な感じで行こうと思いました。

都市管理でうまいことペアリングするために雨を降らした…的なやつです。

文字数:63

課題提出者一覧