夜露死苦卍トラロック

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梗 概

夜露死苦卍トラロック

植民惑星・トラルTlalでは、屋外で70デシベル以上の音を出すことが禁じられている。この理由についてトラル暫定政権は、〈マルト〉と呼ばれるクジラ型の地底怪獣に襲われる為としている。しかし、非公認開拓地〈ニルヴァーナ〉に住む青年・テオは、この説明に疑問を抱いていた。地球から入植して間もない頃、父がギターを使ってマルトと交流していたのを目撃していたからだ。

 

マルトは危険な怪獣ではない。そう思っていたテオは、亡父のギターを物置で見つけた時、それを確かめようと考えた。ニルヴァーナ外縁部で、彼はロックを奏で始める。すると聞き知った習性の通り、幼体のマルトが音楽に引き寄せられてやって来た。テオは緊張するが、その幼いマルトは音楽に乗って頭を振り始める。ご機嫌なヘッドバンギングだ。

 

ワンテンポ遅れでリズムに乗る様から、テオはそのマルトにエコーと名付け、野外ライブを楽しんだ。そしてライブが最高潮を迎えた時、エコーは青白いビームをぶち上げた。〈ヴィジャヤ〉と呼ばれる、結晶型の背面器官から放出されたそれは上空の電子を励起させ、雨雲を形成する。数年ぶりの雨がこの地に降り注いだ。

 

ほぐれた土の中で、エコーは楽しそうに泳ぎ回る。イモを食らう。糞をする。気が付くと、そこには理想の農地が出来上がっている。これを見たテオは、ステージカーで移動しながらライブをすることを思いつく。こうして、星を巡るトラロック・フェスTlal-rocK Fesは密やかに始まった。

 

ところ変わって、公認開拓地〈サンサーラ〉。暫定政権の長・ルドラ将軍の耳に、トラロック・フェスの噂が届く。サンサーラ以外にも雨が降れば、中央集権体制に綻びが生じかねない――そう判断した将軍は、武装バギー楽団〈インドラ・コンボイ〉を率いて追走を始める。

 

フェスに追いついた将軍は、千人規模に膨らんだ観客を解散させようとするが、肝心のマルトたちがテオから離れようとしない。バギーのエンジン音で誘い出そうとしても、ロックに夢中で耳を貸さない。

 

「今度こそ根絶やしにしてやるぞ、音楽家どもめ」

 

怒った将軍が実力行使に出る。テオは火炎放射ギターで迎え撃つが、ステージを破壊され、胸に深手を負う。将軍が迫る中、エコーは背に一つきり生えたヴィジャヤを切り離し、テオの胸に置いた。レーザー照射によって傷む体細胞を、ヴィジャヤが治癒していたことをこの幼いマルトは本能的に理解していたのだ。

 

ヴィジャヤを取り込み、超人と化したテオは胸からビームを放出して、雷霆神インドラを名乗る不心得者たちを薙ぎ払う。追手を退けた一行は、エコーの背に乗ってライブツアーを再開する。全てのヒトとマルトを、輪廻サンサーラから解放するまで彼らの旅を続く。

 

荒野にロックが響き始めたら、雨が降る合図だ。

歌に惹かれてマルトがやって来る。

レーザービームの奥底に、ライブステージは広がっている。

文字数:1196

内容に関するアピール

「雨という制御不能な現象に介入できる存在があるとしたら、それはどんな姿をしているだろう」と考えると、やはり神様とか怪獣とか超常的なものがまず浮かびます。ヨウ化銀を詰め込んだミサイル、とかではなくて。非現実的で、もっとヒトの手に余る存在。そういうものの方が心惹かれます。

 

これを念頭に調べていった結果、ヒンドゥー教の〈マルト神群〉をモデルにすると良いという判断になりました。「神の群れを前に、人間がアピール合戦をしたら新しい画になるんじゃないか」と考えたのです。『ハーメルンの笛吹き男』よろしく、演奏に釣られたマルトが行き、それを雨脚が追従する。賑やかでシュールな画になると思いました。「荒野にロックが響き始めたら、雨が降る合図だ」という一見すると意味不明なくだりを、納得感がある形で描きたいです。

 

※異教の神は往々にして邪神扱いされるので、フェス名だけアステカ神話由来にしました。将軍目線では邪神、と。

文字数:399

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