カラスと絡繰り人形

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梗 概

カラスと絡繰り人形

三人のホームレスとロボットが、勤労者中央通りの公園に夜な夜な集まっている。ロボットは、深夜の通りと公園を見回るのが仕事だ。ロボットは遠隔操作されているアバターで、操縦者は地方にいる。三人のホームレスは、ロボットから電力を分けてもらうため、深夜の公園へ通ってきている。日中は労働者が往来をせわしなく行き来するが、夜になると一転して、ここには誰もいなくなる。
 しだいに、見つけた食料や捕まえたハトやスズメなどを持ち寄り、ロボットの電力で調理して、みんなで深夜の晩餐を行うようになった。
「ハトばかりで、最近はカラスを見ないな。ハトよりも食いでのある、カラスが食べたいな」と、そんな話をする。
 彼らの居場所は、公園のあずま屋だ。ロボットが故障する可能性があるため、充電をするなら屋根のある場所でなくてならない。この時代の雨は、どしゃぶりの豪雨がほとんどで、あっという間に雨水が機体中に回ってしまう。

ある晩、糸のような優しい雨が降った。三人分の充電を終えて、ソケットを防水キャップで覆ったロボットは、屋根の外に出た。汚れを落とそうとしてのことだったが、その様は、三人の目に糸にあやつられる絡繰り人形のように見えた。
 雨糸が消え、ロボットの部品のなかで、もっとも高価な充電池を奪いに、見知らぬ男女がやってきた。三人はてんでばらばらに、逃げてしまう。
 翌晩、罪悪感にまみれた三人が戻ってみると、ロボットはなんとか充電池を奪われずに済んでいた。逃げたことを責めもせず、何ごともなかったかのように振る舞うロボットの姿を見て、三人はさらに深い罪の意識に苛まれた。
 数日後、また同じ男女がバールのようなものを持って、再度現れた。三人は怪我をしながらも立ち向かい、男女を撃退した。

しかし、元の生活に戻ることはできなかった。
 公園で流血沙汰があったことが明るみになり、公園が閉鎖された。ロボットはなかなか三人の前に姿を現すことがない。
 通りの端に座って、その日も三人はロボットを待ちわびた。折からの生暖かい強風が、台風を連れてきた。大雨で洪水がおこり、三人は流された。

三人のうち、ひとりが気がつくと、道路沿いの植え込みの中に倒れていた。泥やゴミにまみれた状態で、ふと見るとカラスの死骸もある。どちらも流されて木にひっかかったのだ。
 ビジネス街は、台風で洪水が起こったにも関わらず、マスクを付け、清潔な服を来た人々が行き交っている。
「そういえば、最近、カラスを見ないね」
と、若い女の声が耳に入る。
 自分にも見えていなかったが、カラスはちゃんといる。いままさに、隣に。
 しかし、ひとびとには自分もカラスも同じように、見えていないのだ。

 身体はほとんど動かない。なんとか首を持ち上げて男が見上げると、勤労者中央通りの看板が目に入る。The CrossRoad of Workers、略称である『CROW』の四文字が大きく書かれた看板の向こう側には、雲ひとつなく、怖いくらいに青い空が広がっていた。

文字数:1229

内容に関するアピール

丘をベッドに、夜空を毛布に。そんな根無し草の三人と、見回りロボットの「中の人」の物語を考えました。

貧しいけれど鳥のように自由な人間たちと、アバター技術で場所から自由になっても、本来持っている身体からは逃れられないアバター・ロボットの不自由を、雨の表現を使って対比したいです。

また、ここのところ、わたしはカラスを見ることがなく、近所を歩いていてホームレスのひとを見かけることもありません。彼らはどこへいったのだろうと思うのですが、きっと、わたしの目に見えていないだけで、すぐ近くにいるのだと思います。

小説で説教されたいひとはいないので、これをテーマとして前面に出すつもりはありません。ただ自己責任という建前で、見るべきものを見ないようにしているのではないか、という自戒を込めて、未来の世界と向き合いたいと考えています。

説教臭くならず、暗くなりすぎず、カッコよく書きたいです。

 

 

文字数:386

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