梗 概
外なる者のラブソング
“鯨の歌”にも流行り廃りがある。
ボイジャー探査機が旅立った1977年には、Queenが大流行していた。
多くの流行歌は、歌詞が表現する感情とメロディーが誘発する情動変化とで似通った性質を示すという話は有名だが、Queenの楽曲もその例に漏れない。歌詞を介さぬ鯨にも、Queenの表現が分かる。
この事実は、1977年当時のNASAが関知していないことだった。ボイジャーに搭載するゴールデンレコードに、鯨語版のQueenが収録されていたとは誰も予想だにしなかったのだ。
人類はそれと知らずにラブソングを打ち出した。外宇宙の知性に向かって。
時は変わって、2045年。太平洋では原因不明の“唸り声”が鳴り響き、鯨の大量死が発生していた。奇妙なことに、鯨たちはみな心臓に殴打された痕があった。
当初、国際研究班による原因調査は難航したが、NASAからの情報提供で事態は進展する。なんと、20年前に活動を停止した筈のボイジャーが、鯨の歌と「Love Of My Life」の歌詞を発信するようになったという。ここで研究班は、ボイジャーが超高度な宇宙文明の元に辿り着いたとの仮説を立てた。
研究班の長、バレンツ氏はやがて鯨の死に様が歌詞と符合していることに気付く。
Love of my life, you’ve hurt me♪
You’ve broken my heart~♪
宇宙から降り注いだラブソングが、鯨の情動を操作し変死に導いている。いつヒト語の歌声が降って来るか分からない。人類滅亡を回避するべく、研究班は鯨語による意思疎通を試みる。
翻訳が進む中、鯨の歌に変化が見られた。
ボイジャーによると、それは「You’re My Best Friend」だった。
You’re my sunshine♪
太陽でスーパーフレアの前兆現象が観測される。太平洋に“歌”を発生させた、未知のエネルギー波によるものだった。研究班は翻訳を急ぐが、その最中に英語音声版の「Love Of My Life」が地上に降り注ぐ。英語話者はみな、己の心臓を殴って死んでしまった。
死の間際、バレンツ氏は唯一無事だった日本人事務員・戸塚にこう言い残す。
「もう時間がない。君が地球を救うんだ」
「外宇宙人の馬鹿どもに、本当の愛を教えてやれ」
戸塚は大急ぎで、虎の子の一曲と共に愛用の翻訳ソフトを発信した。
「聴いてください。あいみょんで『君はロックを聴かない』」
ぼくの心臓のBPM は190になったぞ♪
数日後。人類は頻脈性不整脈により絶滅し、地球はスーパーフレアに呑まれた。
外宇宙人が歌詞を直接的に捉えたのは過失だったのか、それとも手の込んだ嫌がらせだったのか、真相は闇の中である。
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内容に関するアピール
ぼくは人間が苦手です。嫌いではないのですが、とても苦手です。
はじめて講座に来た時も、自分から他人に話し掛けられませんでしたし、打ち上げの時などは大森先生が近くにいらしても質問できないくらい、コミュニケーションが苦手です。
話し掛けた結果、関係性がマイナスに転がるんじゃないか。
じゃあ、ゼロに留めておいた方が幸せじゃないか。
こういったことをよく考えます。ここからヒントを貰って、今回は「いっそコミュニケーションを取らない方が幸せだったのに」となるような、後ろ向きな話を書きました。どうしてこうなった。
実作では外宇宙人が持つ超技術に凄みを持たせて、説得力を高めたいと思います。ひとまず、宇宙から地上に音を届ける技術はあるのだそうで、説明の目途は立っているかと。
というか、どの曲を送れば地球は滅びずに済んだんですかね。
基本、ラブソングって自己破壊的ですし(偏見)。
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