梗 概
幻影鹿
国道四十四号線。根室と釧路をつなぐ全長百三十七キロの道路では、肉体を持たない幻影鹿が現れる。
かつて鹿にまつわる事故は年に二百件程度だったが、幻影鹿の登場で事故の数は二十倍に膨れ上がった。
必然的に交通量は激減、物流が停滞する。鉄道や海路によって町が孤立に陥ることはなかったが、運べる物品の量は減り配達遅延は当たり前。
それでも町の中心部に住んでいる者の影響は軽微だった。しかし郊外に住む人々は移動手段がなくなり転居を迫られる。転居を拒む者もいたが大半が高齢者で、今の国道で車を運転するのは不可能だった。代わりに生活物資の調達のため金を出して人を雇うようになる。
鹿が跋扈する国道を走り抜けて荷物を運搬する専門家、人は彼らを運送人と呼んだ。
巻ノ内は運送人の一人だ。道外で就職したが失敗して地元にUターン。SNSで知り合った蘭麗(ハンドルネーム)という女に運送人に誘われ、週三、四日の頻度で国道四十四号線を走り回る。
ある日、復路の途中で全道一と称される運送人HTと遭遇する。彼はこの数週間で幻影鹿の数が増え、自分から車に当たりにくるようになったと見解を述べる。
数日後、巻ノ内のもとに友人の皆森が訪れる。町中の国道を管理する自治組織『道犬』で活動する彼はHTが鹿と衝突、本州で新車を乗り回すため運送人を辞めたことを告げる。
動揺する巻ノ内。彼は帰宅するが家の前に光る幻影鹿がいた。それは人語で巻ノ内に語りかける。
「〈深鹿次元〉の扉が開く」
驚くことが起こったと蘭麗に報告する巻ノ内。だが鹿は国道四十四号線近くの家々に現れて片っ端から人に語りかけていた。
蘭麗は告げる。生き物は死後、深鹿次元に鹿として存在し、神の元へ参ることで新たな世界に生まれる。彼らがこの世界に出現したのは神たる自分を追ってきたからであり、扉が開こうとする今、個体の数が増えていると。
巻ノ内は蘭麗を深鹿次元に送り返すことに決め、帰りたくないという彼女を無理やり車に乗せる。すると車の前に光る幻想鹿が現れた。奴を追えば深鹿次元の入り口に辿りつける。確信を持って光る幻影鹿を追いかける巻ノ内。道路に集う幻影鹿は蘭麗の元に集うように車の前へ次々と飛び出してくる。あまりの多さに視界が埋まり、運転は苛烈を極めた。彼の客や道犬の協力で進み続ける巻ノ内。二時間ほど運転した末に本物の鹿と激突してしまう。しかしそれは深鹿次元の入り口に辿り着いたことで実体化した光る幻影鹿だった。
光る幻影鹿は傷一つ負わず蘭麗を連れて深鹿次元に入っていく。巻ノ内は帰ろうとするが車は壊れており動かない、深鹿次元が巻ノ内に迫りくる。そこに外車を運転するHTが助けに現れて深鹿次元からの脱出に成功する。残された幻影鹿たちは次々と深鹿次元へと帰っていく。
国道四十四号線は幻影鹿の支配から離れ、人々の手に戻ったのだ。
文字数:1238
内容に関するアピール
今年、数年ぶりに実家に帰りました。その際、家の前に鹿が佇んでいたこと、国道四十四号線の一部が無料高速道路に変化していたことが印象的だったため、道路の変貌と鹿との邂逅の二点がメインとなる話にしました。
巻ノ内の就活失敗やなんとなく生活している感じなど自分の要素を組み込んでおり、運送人については高校時代にバイトで毎日車に乗せられて荷物運びを手伝っていたのでそこをモチーフにしております。
ストーリーに対する感情を乗せられるように。キャラ性を強めに出していき、コミカルかつシュールな話を展開していきたいです。
文字数:253