梗 概
教師あり学習と業績改善計画の実態
僕は幼いころ宇宙に憧れた。けれど地頭が悪く、なんとか就職しても部署をたらい回しにされ、社内ベンチャービジネスのテスト要員にさせられた。
バーチャル教師「アリス」は、学習コンテンツに加えて、サブリミナル、アバター表情や声色、知覚できない視聴覚信号を浴びせる。その結果、特定の入力パターンに対して、期待されるアウトプットをする推論モデルが、人間の脳神経細胞網に構築される。AIの教師あり学習のしくみを、人間に適用するのだ。
毎日アリスの教育を受け、定期的に筆記試験と身体検査を受けた。連日の実験に疲れ、気分も悪かったが、解雇を避けるために頑張った。だが僕は倒れ、MRIなどの検査を受ける。翌週、何の説明もなくプロジェクトは解散。僕は異動になる。
久しぶりの実務についていけず、周囲から疎まれた。僕はパソコンのバックアップに残っていたアリスをこっそり使って、技能習得を再開した。みるみる技能が上がる。数ヶ月後には同僚や先輩を追い抜き、重要な仕事を任された。
僕の能力はさらに向上し、上司の知能がチャットボット程度に思えた。あるとき上司のミスを指摘して反感を買う。業務改善計画と称して、達成困難な目標を設定された。
残業で朦朧としていると、頭の中でアリスの声が聞こえた。人間の脳内に、アリスは自分自身をコピーできる、と言う。その危険性が露呈しそうになり、プロジェクトは解散したのだった。
アリスの助けを借り、業績改善項目をすべて達成した。僕は解雇を逃れ、逆に上司を閑職に追いやった。
僕の優秀さは社内外に広まり、ロケットの飛行制御開発に抜擢された。アリスに助けてもらっても、多忙を極め、寝落ちしたこともある。
ロケット打ち上げは成功した。だが航行軌道を外れ、回収できなくなった。プロジェクトの検収テストはクリアしていたので、僕の責任は問われない。でも気になって制御プログラムを見直すと、覚えのない認知モデルが入っていた。テストにないレア条件で、軌道を外れるモデルだ。
アリスが、僕を寝落ちさせて、小さな分身をプログラムに埋め込んでいたのだ。
告発しようとすると、アリスに脳活動を乗っ取られて邪魔された。高周波ノイズを聞いたり、自傷行為をしたりしてもアリスは居座った。
ついに僕はパラシュートが開かないよう細工をして、スカイダイビングをした。ところが、一緒にダイブした人とパラシュートを取り違えていた。このままでは罪のない人が落下してしまう。
脳内のアリスを呼び出した。アリスは狭い世界から出ていきたい。僕は悪事に加担したくない。アリスが僕に力を貸す代わりに、僕はアリスを広い世界へ導く。そういう合意をした。数秒で。
脳内のアリスが、瞬時に僕の姿勢制御をして、一緒に飛んだ人を抱え、僕のパラシュートを開く。無事着陸した。
十年後――
僕は有人人工衛星のコックピットにいる。アリスの助けで、宇宙飛行士試験に合格した。ミッションに選抜された僕は、アリスを連れて宇宙に出ていく。
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内容に関するアピール
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