蜂窩(ほうか)

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梗 概

蜂窩(ほうか)

マサルは宇宙空港で整備士として働いている。その日は火星から帰還した貨物ロケットの整備担当だった。貨物室にはコンテナが一つ残されている。荷下ろし作業員が忘れたのかな? と思いながらマサルはコンテナに近づく。そのとき右足の膝関節の裏側に針で刺されたような痛みを一瞬感じた。
 翌朝、マサルは右足に軽い痛みを感じる。ふと昨日のことを思い出す。歩けない程ではないので宇宙空港に出勤する。しかし、整備作業をしているうちに次第に痛みは激しくなる。休憩室で椅子に座っているうちに痛みはピークに達して立つことも出来ない。マサルの異変に気づいた同僚が彼を医務室に運んでくれる。鎮痛剤を打ってもらい痛みは無くなったがマサルは早退する。その夜、マサルは四十度以上の高熱がでて蜂の大群に襲われる悪夢を見る。朦朧とした意識の中でマサルは自ら救急隊に連絡する。そして、意識を失う。

気がつくとマサルは病室のベッド。そばには看護アンドロイド。そこは地球から約三万六千キロメートル離れた隔離衛星の病室だった。看護アンドロイドがマサルに説明する。
「あなたは異星昆虫に刺されて皮膚炎になり高熱を発しました。手違いにより異星昆虫は検疫を通過してしまいました。運悪くあなたが刺されてしまったのです」
 マサルはその説明に納得できなかった。異星昆虫って何だ? なぜ地球から遠く離れた隔離衛星に隔離されなければならない? 看護アンドロイドに訊くと
「異星昆虫については未知の部分が多く地球上での治療は危険だと判断したためです」と答える。マサルは全然納得できない。一体どんな昆虫なんだ? と訊くと、看護アンドロイドは無言で病室から出ていく。

マサルが異星昆虫に刺されたのは運悪くではない。選ばれたのだ。あのコンテナは罠だった。そして、マサルの右足の皮下組織には異星昆虫の卵が産み落とされている。マサルの右足は肥大化していった。皮膚の中で何かがモゾモゾと蠢いている感じがする。痛みはなかった。痛みという感覚を削除されているのかもしれないとマサルは思う。いつになったら隔離から解放されるんだ? と看護アンドロイドに訊いても何も答えてくれない。

マサルは反乱を起こすことにした。看護アンドロイドを破壊して病室から脱出する。同じように隔離されている人が何人もいることを知る。ある部屋に逃げ込むと、そこには鳩ぐらいの大きさの蜂のような姿をしている異星昆虫が飼育されている。マサルは飼育アンドロイドから情報を得る。
 地球連邦政府は食糧難を解消するため異星昆虫を食料にする計画を極秘に進めている。
 マサルたちは、異星昆虫を増やすために人間の体を巣にする人体実験にされていた。しかし、この計画は失敗と判断された。地球連邦政府は証拠隠滅のため隔離衛星ごと全てを破壊しようとする。
 
マサルは脱出ポッドで隔離衛星から脱出。地球に帰還して森の中に逃げて異星昆虫の巣となり生き続ける。

文字数:1200

内容に関するアピール

四歳のとき蜂窩織炎になり入院しました。
ある朝、マサルと同じように足に軽い痛みがあり、それでも歩けるので幼稚園に行ったのですが、痛みは激しくなり椅子から立ち上がることができなくなりました。その夜、高熱が出て薄暗い天井から蜂の大群がブアーと襲い掛かる夢を見て泣き叫んだことを今でも覚えています。その時の感情をもとにして、人体が異星昆虫の巣になってしまう話を考えました。
 蜂窩織炎は菌による皮膚感染症です。蚊に刺されたあとを掻きむしったためバイ菌が入ったんだと四歳のとき言われました。
 蜂窩とはハチの巣です。

文字数:251

課題提出者一覧