13名の美しい隆

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梗 概

13名の美しい隆

 私はクローンの研究者であり高給取りで、幸せな生活を送っていた。しかし、結婚を予定して同棲していた恋人の隆は、三ヶ月前に交通事故に遭って死んだ。しかし、隆は私が大学の研究者のポストに就いたとき、「おめ。君の研究にぜひ」と言って、私に自分のクローンデータを取らせてくれた。なので、私は隆が死んでしまった後、迷わず隆のクローンを作ることに決めたのだった。
  ただ隆の全てに私が好意を持っていた、というのははっきり言って嘘。「何時に帰ってくるのか」と急かすせっかちなところや、誕生日にあからさまな夜景を見せに連れて行ったりとやけにロマンチストな性格は研究者である私は正直なんだコイツと思っていた。
  でも私は性格を抜きにして隆の容姿をとても美しいと思っていた。だから、まずは一人目を作ってみたがかなりの精度の隆が出来て私の脳内のドーパミンが弾けた。だからこれからの練習も兼ねて隆のクローンを大量生産しようと思い立った。同棲していたのは子供も産まれる前提で買った上野の3D Kのマンションなんで、大量に容姿の美しい隆がいてくれれば寂しくないだろうと私は思った。隆を作るにあたって、互いの権力関係で争わないように人格は持たせず、それぞれ一つの役割だけを与える。ただ、私のために性欲だけ持たせた。
  そして私は大学の授業が終わった後、さまざまな隆を作り始めた。喉仏が特に美しい隆、大好きなビールだけを飲み続ける隆、床に座って子供のようにゲームに熱中する隆を。喉仏の美しい隆はいくらでも喉仏を撫でても微笑み返してくれるので私は調子に乗っていった。姿形はそれぞれ私の好みによって微妙に違ったが、私は容姿の美しい大量の隆に囲まれて暮らす生活をとても楽しく過ごしていた。隆は結果的に十三人に増えた。
  しかし、事件が起きた。ある大学主催の大きなクローンプロジェクトが終わると、私の研究ゼミで大規模な飲み会が開かれることになった。その際、先生は結婚しないんですかと問われたので、お酒の勢いもあり、今の生活の現状をベラベラと喋ったのだった。私は酒を飲むとテンションがブチ上がる。するとあるゼミ生の野村くんが言った。
 先生、気持ち悪いですよ。
 そんなのは、人間の普通の生活じゃないです。
 では、普通ってなんや。と私は問うたが、その答えは野村くんからは返ってくる事はなかった。だがそれまで大いに盛り上がっていた飲み会が、私の話で静まりかえったのはマジだった。
 その晩、私は野村くんに水を差されたことに腹たったんで、十三人の隆をこれまで以上に愛そうと全員をベッドに召喚した。あらゆる方向から大量の隆に愛撫され大満足したけれども、野村くんの、
 先生、気持ち悪いですよ。がどこか頭の中に引っかかっていて。
 そして次の朝、ゲームしている隆に行ってくるわ。と言うと、隆はゲームに夢中になりすぎて無視をした。こんなことは初めてのことだった。激しい怒りが湧いてきて、私は隆の頬を殴ったが相変わらず隆はゲームをしていた。その様子を見て、私は隆という人間の形骸を愛し尽くしてしまったことに気づいた。

文字数:1275

内容に関するアピール

 個人的には主人公が隆の全てに好意を持っていなかったのでクローンという形骸でよし、性欲さえ満たされれば十分、というのが設定としていいかなと思って書き始めました。見せ所としては十三人の隆の書き分けです。複数人の隆が同時に存在し、会話をする(固まった人格を持っていないので極めて動物的な会話となりますが)。また複数人の隆が外に出歩いていって目撃されて主人公が近隣住民にドン引かれるのも良いでしょう。そしてその他の書きどころとしては、クローンたちと主人公の幸福な生活の書き方、また野村くんにキモイですよと言われるところ、ゲームをしている隆をぶん殴るところです。

文字数:277

課題提出者一覧