骨壺の届く場所で

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梗 概

骨壺の届く場所で

208X年、遺骨を衛星へ納める衛星葬が可能となった。葬送の手段では火葬や土葬、散骨が主流だが、衛星葬は自分の墓を異星に建てたい宇宙オタクや宗教不問で同じ墓に入りたい親族、身寄りのない人に需要があった。

株式会社ボーンは地球から6億km離れた木星衛星で納骨堂ドームの管理や墓地の販売を行っている。半径200kmの小さなこの星は通称〝墓衛星クレイブサテライト〟という。

30歳のいつきはボーン社の社員。地球から輸送された骨壺カプセル納骨堂ドームや墓地に収蔵するのが彼の仕事だ。社員50人中、唯一日本人の樹は周りと馴染めずにいた。孤独な彼の楽しみは親友 かけるとの月に一度の交信だ。宇宙写真家の翔は撮影のため宇宙を忙しく飛び回っていた。翔の華々しい活躍と自分の冴えない現状を比べ樹は劣等感を抱く。翔はこれから地球で長期休暇を取るという。結婚するのだ。近々妻を紹介すると言われ終話する。

翔から連絡が来ないまま3年が過ぎたある日、地球から数百の骨壺カプセルが届く。骨壺カプセルは連日届き、その数は日毎増していた。このままだと収蔵場所が足りなくなる。遺骨を砕き遺灰にし何とか収蔵場所を確保するも、骨壺カプセルはさらに増え続け空き地に埋めてもまだ溢れる。一時凌ぎで納骨堂ドームの屋上に並べながら、樹は遺骨の日本人割合が高いことを疑問に思う。調べると大量の遺骨は3年前に日本で起きた大災害の犠牲者たちだったことが判明する。まさかと思い骨壺カプセルリストを見ると翔の名前もあった。3年かけてここに辿り着いたのだ。

ボーン社では骨壺カプセルを地球へ返却すべく議論が始まる。絶望する樹は議論から離れ翔の骨壺カプセルを抱える。中には生き残った翔の妻から樹宛ての手紙が入っていた。そこには翔が樹に結婚式のスピーチを頼もうとしていたこと、そして翔の骨の一部を樹に供養してほしいという願いが綴られていた。樹は立ち上がり議論中の社員たちに頭を下げる。一人ずつの納骨は無理でもせめて集合墓地を作り弔わせてほしい。彼の熱意に心動かされた社員らは総出で墓地の穴を掘り始める。

1か月後、すべての遺灰が埋まる程の深い穴が完成し皆は歓声をあげる。樹は宇宙貨物車トラックの荷台に遺灰を積み運転する。穴へ向かう途中、翔が写真家として初めて宇宙へ旅立つ日の記憶が蘇る。心配する樹に翔は笑った。「もし俺が死んだら輝く星にしてくれよ!」

樹は車の向きを変え猛スピードで走り出す。車輪が徐々に浮いて離陸しそのまま宇宙空間に飛び出した。大量の遺灰が闇の中に勢いよく舞い上がる。窓越しに見えるそれは白い霧のようだった。樹は目を閉じる。どこまでも行け。他の星間物質と混じりあい分子雲となればいい。そしてそれがコアとなり、1億年、あるいはもっと先で、光り輝く星となればいい。そして僕は弔う。星になった君のことを。

文字数:1200

内容に関するアピール

増えていくものは骨壺の量です。感情をあまり表に出さない静的な樹が、物語の進行と骨壺の増加に伴い感情が高ぶっていき、思いの丈を吐露するラストを読みどころにしたいと思いました。

設定の補足をすると、墓衛星クレイブサテライトは半径200kmほどの衛星ですが、衛星全体が重力制御と大気生成が可能なドーム状の特殊防壁に覆われているため社員の生活が可能となっています。衛星に送られてきた遺骨は、災害で亡くなられた身寄りのない人々の一部です。具体的には、生前の遺書で埋葬先を衛星に希望している人や、関係者よって衛星に送ろうと判断された人などです。

実作では、骨壺の具体量、樹の仕事内容(納骨の仕方や法要の時は読経配信の準備をするなど)、翔との過去のやりとり、社内での人間関係など、しっかり書きたいと思います。よろしくお願いします。

文字数:358

課題提出者一覧