毀損

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梗 概

毀損

 幸人の兄、雅彦は特別な能力を持っていた。能力を得たきっかけは、兄の雅彦が23歳のときに両親と共に乗った車で事故にあい、雅彦が下半身不随になったこと。雅彦は、強いストレスを受けるとドーパミン過多となり、彼の幻覚や妄想がその場にいる全員に伝わるようになった。医者によってその能力は「幻覚放射(ミラーリング)」と名付けられた。

 事故直後、雅彦はめげずに得意だったバスケを続けるため、車いすバスケを始める。幸人は酒と女に溺れ、「やましさ」の意識から逃れることができない。実は数年前の兄と両親を襲った自動車事故は、幸人が仕組んだものだった。幼い頃から運動神経が抜群だった兄を両親は寵愛した。プロへの道が開けた雅彦の眩しさへの嫌悪から金に困っている友人に両親と雅彦が乗った車を軽くぶつけてもらう予定だったが他の車が絡んだ大事故となり、友人と両親は即死。この一件は事故として処理される。

 幸人は警備員の仕事についていたがバスケ好きの同僚と殴り合いの喧嘩になり解雇される。幸人は両親の遺産で雅彦を介護しているとき「試合中にその能力を使えば楽勝なのにな」と言うが、雅彦は「スポーツのときには絶対に使わない」と言い切る。雅彦は幸人を労うために日常生活の中で能力を使うこともあった。    

 2021年のパラリンピックでバスケ選手として出場が決まった雅彦。父と母のために必ず勝つと決めた雅彦は覚悟のために全身に刺青を入れる。

 そんなとき、24時間テレビのディレクターから雅彦を取材させてくれないかという電話が入る。彼は「ただの感動ポルノなのになあ」と笑いながらも全国の障害者のために出演。

 友人の妻と子どもは優しく介護する幸人と雅彦が出ているテレビを見て、不思議に思う。事故の前に夫と密に連絡を取っていたのが幸人だったからだ。友人の妻は警察に幸人を容疑者として再捜査を頼む。そして警察が兄弟の元を再び訪れるようになる。

 雅彦の対戦相手はロシアのチーム。第1戦目から雅彦のチームは劣勢となり、これまで封じ込めてきた幻覚と妄想が出始める。24時間テレビのディレクターに「もっと車椅子と刺青見せてもらえる?」と言われたことへの怒り。会場は騒然となり、味方チームが混乱する中、敵の選手にシュートされ負ける。だがその後、敵の選手のドーピングが発覚。逆転勝利となったものの、雅彦は仲間から幻覚について責められ、コーチからも「克服しない限りはチームのメンバーから外す」と言われる。

 雅彦は第二戦目、幻覚を抑える薬を飲んで試合に臨むが、幻覚が出てチームは負ける。テレビで雅彦の幻覚を見ていた幸人は愕然となる。一瞬だけ受けとった幻覚の中に、友人との会話が入っていたのだ。雅彦はあの交通事故が幸人が仕組んだと知っていた。安心と癒しを求め幸人は贔屓のデリヘル嬢にラインするが、テレビを観ていたデリヘル嬢に軽蔑され断られる。その幻覚が状況証拠となり、幸人は連行される。

文字数:1212

内容に関するアピール

 事故を見た目撃者の証言からスタート。一番ネックとなるのが兄の幻覚の伝播の描写と理論であり工夫する必要あり。雅彦の眩しさによって主人公は「自分が本来享受すべきであった幸せを毀損された」と感じていて、幼少期から兄の体操着を燃やしたりしていた。その延長で車をぶつけるが、完全に主人公が悪者になってしまうので、その後の主人公の生活が雅彦の介護で凄惨であることを強調。そして主人公が贔屓にしているデリヘル嬢の存在も主人公の「やましさ」の意識を助長させる。主人公は行為後、酔っ払いながら彼女に対し「なぜ会社員を辞めてデリヘル嬢になったのか」と問うが「搾取され続けるのが嫌だったの。お兄さんの眩しさに搾取されてきたあなたの人生と同じよ、でも会社員を辞めて自由になったけど、その自由はタダではないわ」と言い、次の客のところへ向かう。ラストの幻覚には雅彦が介護してもらって申し訳ないと幸人に思っていることも入れる。

文字数:399

課題提出者一覧