結界にて

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梗 概

結界にて

十一歳のニコは放課後、偽物の救急車に乗ったガスマスク/白衣姿の男に連れ去られ「結界」と呼ばれる異様な家に閉じ込められる。そこは窓も玄関もなく外界と隔絶されており、壁や家具の何もかもが白く、薬品の匂いが立ちこめ、数十台のロボット掃除機が物静かに稼働する、偏執的な清潔さが保たれていた。「結界」にはニコと同じようにさらわれてきた十二歳のイチカと七歳のサンタがおり、三人は奇妙な生活を強いられる。終末をもたらす「疫病王」が降臨し災厄をふりまいており、このままでは世界は滅ぶ。君たちはここで訓練をして「疫病王」を討伐するために集められた、と室内でもガスマスクを外さない男は言う。「救世主プログラム」という討伐のためらしい謎の授業が始まり、用途不明なカリキュラムをニコ達は恐怖心から必死でこなす。

プログラム以外の時間にも仕事を課され、脱出のための出口も見つからないまま日々は忙しなく過ぎていく。男が「天使」と呼ぶ部屋の一室にひしめくニワトリ達の世話、奇形の野菜ばかりが生る中庭の菜園の手入れなどを当番制で行う。三人には共通点があり、劣悪な家庭環境、学校にうまく馴染めないこと、同じ部屋で寝起きしながら、眠る前の静かでまっくらな部屋でそれぞれ「結界」に連れて来られる前の生活について話し打ち解けていく。

「救世主プログラム」を継続するうち、三人の個性が現れていく。イチカは病気をしたことのない丈夫な体と高い運動能力を持っており、格闘技にのめりこんでいく。サンタはとても賢く、書斎にある難しそうな医術の本をかたっぱしから読み漁るようになる。ニコはニワトリの扱いや料理も上手く、なんでも器用にこなした。男は不気味な行動や意味不明な言動は多かったが暴力や不快なことはしなかった。ニコはいつのまにか不安感が薄れているのを感じた。

ある意味で平穏な生活が続いていたある日、男が突然「救世主プログラム」の最終試験を行うと言う。その日の男は霧が晴れたように虚言を吐くことも奇行もなく明瞭な様子だった。霊力が宿るというとっておきの「天使(チキン)」を食べ、男はニコ達がここに来て初めて、昔、医者だった頃、同僚の医療ミスで妻と娘を亡くしたことを話す。その夜、ニワトリが騒いでいる音でニコは目覚める。イチカとサンタを起こし、おそるおそる覗いてみると、男がニワトリを手づかみで食いちぎっていた。ガスマスクは外されていて、真っ赤に変色した瞳が見えた。角と黒い翼が生えた黒い巨体の怪物に変貌していく。最終試験。疫病王の討伐。ニコの頭に文字がぐるぐる浮かぶ。襲ってくる怪物を三人は死闘の末、討伐する。ニコはこの家からの脱出を決める。とっくに出口を見つけていたが二人には黙っていた。清潔な家の出口。キッチンのダストボックスの底のフタを外すと深い穴になっている。家に別れを告げ、ニコ達は飛び込む。

そこは何の変哲もない住宅街だった。外から見る「結界」の外観は裕福そうな普通の家に見えた。三人は「疫病王」を討伐するため、手を取り合って黄昏の世界を歩いていく。

文字数:1253

内容に関するアピール

始めは直球で、新型コロナウイルスを題材にした話にしよう!だったのですが、ほんとにウイルスみたいに変異と増殖を何度もくりかえした結果、このようになりました。緊急事態宣言中、商店街で「コロナはイルミナティがばらまいた」と謎の手作りのビラを配りながら大声で叫んでいた若い男性が必死な顔をしていたことが頭に引っかかっていて、どことなくモデルとなりました。

マイブームというかマイ旬も入れようと思い、疑似家族的な要素や、悪魔風な要素が入りました。登場人物の背景や自給自足的な閉鎖生活を詳しく書き、全体的に唐突になってしまった展開も丁寧に、小説として形にできればと思います。

文字数:280

課題提出者一覧