家族八脚

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梗 概

家族八脚

 COVID-19による長引く不況で失業した亮輔の父が、OctTech社の開発した人工蛸型知能を搭載した機械「タコは地球を救う(Octopus Saves the Earth)」を連れ帰ってきた時、亮輔はTVでサザエさんを見ている最中だった。亮輔の父は海蛸の頭部を模した蛸型機械を亮輔に見せ、「このタコこそ僕らの救世主」と宣言し、TVを消した。
 
  半年後、亮輔の脳内に、OctTech社製の通信チップが埋め込まれた。

 OctTech社が介護補助用に開発した製品「タコは地球を救う(Octopus Saves the Earth)」通称OSEは、人間の五感情報から次元削減して特徴量を抽出する信号処理システムと、高速で電力消費の少ない通信機能を有するブレインマシンインターフェイスである。OSE装着者は脳内に埋め込まれた通信チップから、蛸型ゲートウェイを介して他のOSE装着者に情報が伝送でき、所謂テレパシーのような働きをする。蛸型機械には最大で8人のOSE装着者が常時接続でき、亮輔は常に家族と接続されることとなった。 

 OSEを装着した亮輔が近所をぶらついていると、公園で少し年上の少女、由奈と出会う。由奈もまたOSE装着者であった。亮輔と由奈は意気投合したが、OSEについて意見が衝突する。亮輔はOSEに自分が支配されるディストピアを恐れたが、由奈は未来を予測するのが専門家からタコに変わっただけで恐れることは何もないと言う。

「知ってる?OSE装着者同士は、情報を共有できるから、”気持ちいいこと”を脳内で直接共有できるんだよ」

 由奈は亮輔に額を近づけて、”気持ちいいこと”を二人で共有しようとする。亮輔はその瞬間、感じたことのない昂揚感を味わった。その後、二人は背徳感から気まずくなり、公園を去る。 
 だが亮輔はその絶頂が忘れられず、その後由奈を何度か探してみるも一向に彼女が見つかることはなかった。

 数年後、亮輔の母が突然、絶命する。死んだ母の手には、脳から無理くりに引きちぎったと思われるOSEチップが握りしめられていた。その日亮輔は涙し、その晩から、亮輔はタコが性交する夢を頻繁に見るようになった。自身が海蛸となって、交接腕をメスにねじ込もうとする夢だ。

 そんな折、亮輔はOchtTech社の技術者となった由奈と再会する。亮輔は自身が頻繁に見る夢について彼女に尋ねたが、現在のOSE技術では、装着者に幻視させるような技術はなく、仮に出来たとしても、電気刺激で気分がすこし高揚するといった程度の亢進作用があるだけと断言する。あの公園での出来事も思春期特有の錯覚だったのだ、と由奈は言う。

 だが、その後も亮輔は交接腕の夢を毎晩見続ける。次第に亮輔の周囲の人間も同じ蛸の夢を見るようになり、白昼夢のように蛸の幻覚を常に見るようになった。みんな蛸になって遊泳し、交接を試みる。そして亮輔は遂に一匹のタコとの交接に成功し、精包カプセルを奥へと押し入れた。

 そこで亮輔は目が醒め、人間に戻った。「私は初めからタコであって、人間である夢を今見ているだけなのか」と自問するが、答えは出なかった。

文字数:1290

内容に関するアピール

用語説明

・OctTech社…人間の知能拡張のため、人類とは異なる情報処理形式を有する蛸型知能を利用した製品開発に取り組む千葉県に居を構えるベンチャー企業

・人工蛸型知能…OctTech社の開発した人工知能。開発したタコ足ロボットにより、タコの知能を再現し、2018年、麻雀のトッププレイヤーとの対決に勝利したことで一躍脚光を浴びた。(「タコが人類に勝った日」)

タコは地球を救う(Octopus Saves the Earth)…通称OSE。OctTech社の開発したブレインマシンインターフェース。使用者の脳内に埋め込まれたチップを特にOSEと呼んでいる。1988年の同名ゲームとは関係ないが、恐らく命名権を持つ偉い人にこのゲームのファンが居たものと推察される。

 

旬の話題としてneuralink(https://neuralink.com/)を挙げます。SFを読んできている人からすれば、珍しくない題材かもしれませんが、実際に現実の機械として開発が進められていると思うと、テンションがぶち上がるので、この題材としました。一年間よろしくお願いします。

文字数:471

課題提出者一覧