あたらしい生活様式

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梗 概

あたらしい生活様式

新型ウイルス感染症の感染拡大防止のため、全国で外出自粛の要請と学校の一斉休校が実施された。
 中学一年生の少年・中林俊は、日中は両親が不在のため、自宅で一人で過ごしている。以前は同居の祖父がいたが、先頃亡くなっていた。
 俊の自宅を、小学二年生の従兄弟・細田啓太が訪ねてくる。外出自粛により在宅勤務となった両親の仲が険悪で、自宅にいるのが辛いらしい。
 啓太は祖父宛てに届いていた小包を見つける。中には小さな装置が入っていた。装置を起動させると、家中の家電が勝手に動いたり、音声アナウンスが妙に丁寧な言い回しになったりと、いっせいにおかしな動作をする。また、近所の住人が、俊たちが騒いでいることに苦情を言いに来るが、急に言動を軟化させて帰っていく。
 俊と啓太が困惑しているところへ、点検業者を装った強盗が押し入ってくる。強盗は俊たちを脅して金品を要求するが、突然、妙に丁寧な言動をとりはじめる。俊と啓太は強盗の隙をついて反撃し、警察に通報する。
 警察が強盗を捕らえて去った後、俊と啓太のもとに、防護服姿の男性があらわれる。男性は、ある企業の社員だと名乗る。俊たちの祖父は、亡くなる直前まで、男性の会社で新製品の開発に関わっていたらしい。
 2035年の現在、致死性の高い新型ウイルス感染症の蔓延により、人々は全身を防護服で覆って生活することを余儀なくされていた。不自由な生活が続く中、些細なきっかけから深刻な対人トラブルが生じたり、人間関係が悪化することが増え、問題となっていた。
 この問題を緩和するために、男性の会社が開発したのが、新製品「コミュニケーション・サポートシステム(通称コミュサポ)」だった。この装置を防護服に装着すると、状況に応じた適切な言動をゴーグルに表示したり、自分が発した言葉を摩擦の生じにくい言い方に自動変換して流すことができるという。
 啓太が見つけた小包の装置はコミュサポの試作品であり、家電のおかしな動作や、強盗の妙な言動は、装置の欠陥が原因だった。男性は、装置の欠陥を修復して帰っていく。
 翌日、啓太の母親が息子を迎えにやって来る。俊は、大人しく帰っていく啓太が、コミュサポを使用して母親と会話していることに気づく。

十年後。感染症の蔓延は収束せず、防護服を着用して生活する日々が続いていた。コミュサポは使用が広がり、防護服の標準装備となっていた。そんな中、開発中だった感染症のワクチンと特効薬について、供給の見通しがたったというニュースが流れる。
 23歳になった俊は、ニュースに希望を感じる一方で、感染症を克服した後の社会について考える。感染症が克服されれば、もう防護服を着て生活する必要はなくなる。だが、そうなったとき、自分たちはコミュサポのない生活に戻れるだろうか、と。そのとき自分たちは、再び素顔を晒して、自らの言葉で他者とやり取りしなければならなくなるのだ。

文字数:1194

内容に関するアピール

中高生の頃、制服が着ぐるみだったらいいのに、と思っていました。着用者の言動を、すべて礼節に沿った既定のフォーマットに自動変換するような機能が付いた着ぐるみです。会話の中から、話者の個性やマイナス感情を感じさせる要素を除くことができれば、人間関係の摩擦が減って、学校生活がずっと平穏になるのでは、と想像していました。
 新型コロナウイルス感染症の出現により、普段の生活でマスクをつけるようになりましたが、これがもっと致死性の高い病気だったら、マスクではなく全身を覆う防護服を着るようになったりしたかしら。そんな思いつきから、昔想像した着ぐるみを思い出し、二つを結びつけて物語にしました。
 物語の時間は近未来、コロナは収束し、新たに致死性の高い感染症が蔓延している日本です。実作する際は、中盤までは現状のコロナ禍における話だと読み手に思わせて、後半で近未来であることを明かす書き方をしたいと思います。

文字数:397

課題提出者一覧