パラダイス・ロスト

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梗 概

パラダイス・ロスト

近未来。結婚は男女の自由意志によるものではなく、機械判断によるマッチングが常識となっていた。
 政府は、機械判断によるマッチングに疑義を生じさせないために、恋愛を題材とする創作物全般を禁止にしている。
 小説、映画などのメジャーなジャンルの創作物はすでに根絶されていたが、古いギャルゲーはそのマニアックな立ち位置により、根絶をかろうじて回避していた。

古いギャルゲーのデータが保管されたサーバー「虚無の偶像」は、電脳世界の片隅にひっそりと存在している。
「虚無の偶像」では、ギャルゲーの登場人物たちがAIとして自律行動し、静かに暮らしていた。
「虚無の偶像」は、過去に何度か政府のサイバー戦部隊からの攻撃を受けていたが、犠牲を出しながらも、AIを別のサーバーに移して消滅を免れている。

かつては数多く存在していたAIたちも、あと2体を残すのみだ。
 1人目のAIの吉良光司きらこうじは、高校を舞台にしたギャルゲーの主人公だ。複数の女性と、同時進行で仲良くすることが得意だ。
 2人目のAIの不破奏子ふわそうこは、妖怪と恋愛するギャルゲーのキャラで、女郎蜘蛛の妖怪だ。人間と蜘蛛の姿に変身できる能力を持つ。

「虚無の偶像」の成り立ちは、サーバー内でこう伝わっている。
『とある人物が、ギャルゲーという創作物がこの世から根絶されることを悲しみ、個人的に所有していたギャルゲーのデータをネットの片隅に隠すと同時に、ゲーム内の登場人物をAI化し、自律行動ができるようにした』と。

2体の平穏な生活は長く続かず、政府は「虚無の偶像」の場所を特定し、大規模な攻撃を仕掛けてくる。
 この攻撃で残りのAIを破壊し、ギャルゲーの存在を完全に根絶するために。

遂に、政府のサイバー戦部隊が、「虚無の偶像」に侵入を始めた。
 奏子は、「虚無の偶像」内に保管されていた、蜘蛛の姿に似た多脚式移動砲台を駆り、サイバー戦部隊と激しい戦いを繰り広げる。
 光司は奏子を援護していたが、戦闘の爆発に巻き込まれて、「虚無の偶像」の奥底に落下する。
 奥底には、「虚無の偶像」の真実が隠されていた。

「虚無の偶像」を設立した人物は、機械判断による結婚のマッチング政策を進めた政府のプロジェクトチームの一員だった。
 プロジェクトを進めていくうちに、機械による結婚マッチングの歪さに気付いたが、自分の立場ではどうすることも出来ず苦悩していた。
 恋愛に関する創作物の根絶行為も計画されていたので、せめて自分が若いころに楽しんだギャルゲーという文化を後世に残したいと思い、「虚無の偶像」をこっそりと作り上げたのだ。

奏子の犠牲により、崩壊する「虚無の偶像」から辛くも脱出した光司は、政府の追撃の手が届かない新天地を探すために旅立つ。
 自分1体だけでも、ギャルゲーという文化を残すために。

文字数:1158

内容に関するアピール

コロナウイルスの影響で、マッチングアプリなどを利用するオンライン婚活の需要が高まっているそうです。
 未来の婚活はどうなっているかを想像してみると、「恋愛という文化が廃れ、機械による男女のマッチングが当たり前になった世界」を思いつきました。

その世界において、恋愛に関する創作物がどのような扱いを受けているのかを考えたとき、「恋愛に関する創作物のデータが、隔離されたサーバーにひっそりと存在している世界観」が心に浮かびました。
 世の中で恋愛に関する創作物は膨大なジャンルが存在しますが、日本発祥のギャルゲーは独特の立ち位置だと感じ、その世界に最後に残った恋愛の創作物はギャルゲーであると設定しました。
 その世界で、ギャルゲーのAIデータたちが生存のために奮闘する物語を書きます。

文字数:337

課題提出者一覧