ふたりのはじめての冬

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梗 概

ふたりのはじめての冬

二十年前、『激甚ウイルス』が大流行して何万人もの人間が死んだ。生き残るため、人間は冬眠を選んだ。
 ウイルスは冬になると活発化し、風に乗ってどこへでも浮遊する。そのため冬の外出には防護服が必須。十九年前のクーデタによる政権から、日本政府は人々に冬のコールドスリープを推奨している。一部のエッセンシャルワーカーは例外だが、今では日本人の九十八%が長い冬を冷たい眠りの中で過ごす。

エッセンシャルワーカーのひとりである和田は眠れなかった。和田耀は二十代後半にして中尉。父の和田篤志は政治家で、医療省の大臣である。
 和田は、クーデタを指導したカリスマ、須田将軍から内密の指示を受ける。クーデタの指導者の一人、岸辺首相が私邸で殺された。岸辺の自宅では、殺人の日の朝十時ごろ、洗浄室を使用されている。冬は洗浄室で防護服を洗浄しないと安全に脱着ができない。また、犯人は岸辺のコンピュータを使用し、激甚ウイルスのワクチンに関わる情報をはじめとした国家機密を見た可能性がある。

和田は、エッセンシャルワーカー以外で現在コールドスリープしておらず活動している人間を探す。その中に、知人の小澤の名前がある。
 和田は小澤を尋問するが、私立探偵の小澤は逆に和田の弱みを握り、自分を雇うように迫る。和田は、ここで事件を解決できれば出世できると考え、小澤を雇う。

二人はまず岸辺氏の直前に接触したジャーナリストの影山を尋問する。影山は殺人の前日に岸辺から電話を受け、取材予定だったという。取材の内容を聞く前に、影山はどこからか銃で撃たれて殺される。和田は小澤に庇われて助かった。
 和田は須田将軍に危険なので手を引くように言われる。しかし、小澤は和田に、激甚ウイルスについての情報を握っているはずの和田の父も危ないと指摘する。和田は父を失えば出世できない。また、小澤にひかれはじめていたので、引き続き事件を追うことにする。

二人は松濤にある岸辺の私邸に忍び込み、影山がこの家を訪れていた証拠を見つける。また、クローゼットの中から岸辺の私物の防護服が見つかるが、そこには埃がついていた。岸辺がクリーンルームを使用しなかったようだ。
 二人は徒歩で帰り、冬眠して信号も止められたスクランブル交差点の真ん中で、小澤が防護服のマスクを外す。

翌日、小澤は身柄を拘束され、須田将軍の元に連れていかれる。
 小澤は、前日から当日にかけて、岸辺邸で何があったか説明する。
 岸辺は当日朝、防護服を身に付けて外出し、帰宅するが防護服を洗浄しない。
 朝十時、影山が家を訪れ、洗浄室を使用する。そしてコンピュータでネタの提供を受け、立ち去る。
 その後、岸辺は犯人を家に招き入れる。このとき、犯人は防護服を洗浄していない。防護服を身に付けているかさえ疑わしい。
 岸辺と犯人は、防護服を洗浄する必要はないと知っていたのだ。パンデミックは終わった。それこそが岸辺の発表したかったことだ。
 岸辺は当日の朝外出したとき、そのことを公開すると犯人に告げたため殺されたのだろう。しかしすでに情報は誰かにもれており、犯人は和田を使ってその先が誰かを調べさせた。犯人は須田将軍だ。
 須田はそれを認め、一つ間違いを正す。 岸辺が公開したかったのは、パンデミックが終わったということではない。パンデミックはクーデタが起こる前から終わっていたのだ。
 そして小澤を殺そうとするが、和田が現われて須田を殺し、小澤を連れて逃げようとする。そこに和田の父が現われる。
 和田は父に命乞いをする。しかし小澤は、和田の父和田篤志こそが小澤の父の仇であり、また黒幕だという。
 和田篤志はそれを否定せず、地球温暖化が進むにもかかわらずエネルギーを湯水のように使用する人間を寝かすのがクーデタの目的だったという。
 小澤と和田はその場を逃げ出し、自動車に乗ってどこか遠くにふたりで逃げることを決める。

文字数:1593

内容に関するアピール

旬なのは、「ウイルス」「ロックダウン」部分です。
ハードボイルド風ミステリにしたいと考えており、探偵小澤のキャラクター造形と、アクション部分が重要かと思います。また、防護服を身に付けて、ほかに誰もいない世界で聞き込み・アクションをするということで、その特殊感の描写も心がけたいと思います。
また、BLです。和田と小澤は幼馴染という設定なのですが過去何があったのか、小澤がどうして和田に自分を雇うように言ったのか、といった二人の関係性についても書き込みます。最初は打算から始まった関係から少しずつ親しくなっていく様子を書きます。
また、どうして影山が岸辺邸にいたとわかったのか、影山がなぜ岸辺とやり取りがあったとわかったのか、などミステリ部分についても詰める必要があります。
緊急事態宣言時に誰もいない渋谷を歩いて、この光景を書きたいなと思いました。

文字数:370

課題提出者一覧