プロボスキス

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梗 概

プロボスキス

 この世でリュウを恐れていない者などいない。

日本で第五のビールが生まれ、仕事の自動化が実現していた頃、モーリタニアでのタコの大量死を契機に新種の生物、プロボスキスが発見された。
 この生物の特徴は、水分に吸着し細菌のように水分活性をすること、人の皮膚から侵入し一時間ほどで宿主を骨まで吸い尽してしまうことが挙げられる。
 更に、プロボスキスは一定量かつ一定密度を超えると群を形成し、独自の水の流れ《リュウ》を作り出し生物を襲った。そのため、洪水などに伴うリュウに襲われないよう人々は、生まれた時から一定距離が取られた家屋で一人暮らしをするのが当たり前になっていた。

海や河川、雨すら人類にとって脅威となり、仕事のほぼ全てが自動化されている時代に、いまだ人が携わっている仕事が一つだけあった。それが水難救助隊だ。
 水難救助隊はチャルター社が経営する浄水場のサポート業務部門だったが、今や水に関わるトラブル全てを請け負い、日々危険と隣り合わせの中で業務を行っている。
 専用の防水服が必須となる水難救助隊に属する主人公は、会社が用意した一軒家に生まれた時から一人暮らしをしている。
 彼女の暮らす地域は水害が少なく、彼女が生まれて以降洪水は起きていない。そのため、仕事と言っても定期的な見回りや排水溝詰まりの除去作業などの出動に留まり、平和に暮らしていた。
 結果として、彼女は生身の人間を生まれてから一度も見たことが無い。他人という存在は映画やドラマなどで知った。更に言えば直に他人の肉声を聞いたことすら無い。そんな彼女はついつい考えてしまう。
「私の生きている意味ってなんだろう」

珍しく大雨が降ったその日、近くの河川ははん濫水位に近づき、水難救助隊はリュウ誘導経路確保のための緊急出動となっていた。
 主人公は一人、多目的自働ユニットへの指示系統を調整していたが、排水路内で発生したリュウの逆流噴出に飲み込まれプロボスキスに触れてしまう。

死が確定した主人公が何の感慨もなく地べたに寝転がっていると、そこに人が一人現れた。
「お待たせ。間に合ったみたいだね」
 既に動けなくなっている彼女のヘルメットが脱がされる。初めて相対する人は主人公より少しだけ背が高く、声が低い女性だった。
「君を助けることは出来ないけど、出来る限りの事をさせて欲しい」
 その女性は主人公が意識を失うまでの残り十数分間、出来る限りの質問に答え、身の上話をし、主人公を驚かせ笑わせた。死ぬ間際だったが、それでも主人公は生まれてはじめて人と会話が出来た。
「ここで君は死んでしまうが、君が生きていたという事実は私の記憶と記録にとどめる。そして君に名前をつけるよ」
 彼女のこの言葉で主人公は自分の人生の重みを初めて感じ、死ぬことが怖くなり、そして何か救われた気分になれた。
 

 個人名が喪失している時代。死して初めて、名瀬シズカは生まれたのだった。

文字数:1194

内容に関するアピール

人との交流が断絶され、実感的に自分しかいない世界になった時、一個人という感覚は失われ、「周囲が悲しむ・困る」といった希死念慮へのカウンターは意味消失し、人は生きている意味を見出しづらくなります。
 そんな主人公が死の間際に他者と出会い、交流の中で自己の存在を他者の中に認め自己の中に他者の存在を認めることで、自己同一性と死への抵抗が芽生えて、ほんの少しだけ人生の意味を得て死ぬ話です。
 一人称視点なので、作中では明示しませんが、この世界での国はすでに崩壊し、水難救助隊は残り少ない人類に生きている実感と生きがいを与えるため意図的に残された仕事となっています。ネットはアーカイブで埋め尽くされ、SNSは自動生成のものばかりです。
 実作ではそういった一人称視点で明らかにされない世界観を、描写内の違和感に落とし込んで読者に考察してもらえるようにしたいと思っています。
 あとタイトルは思いつきませんでした。

文字数:399

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‟I need You”could.

 

暗闇の中、小さなモニターが1つ灯り数値が表示されている。
 その光はその周囲を僅かに浮かび上がらせ、その範囲に目立ったものがないことを控えめに教えてくれていた。
 ピ、と控えめな音と共にモニターの数値が2減った。
 そのモニターが設置されて以降、頻度や量は変われども、その数値の減少は止まることを知らなかった。
 その事実を世界の誰もが知っていて、しかしいまやその重大さを感じられる者はいない。
 ただ一つ。誰も記せぬ事実を付記するのなら、こう付け加える。

その瞬間を見た者は、世界のどこにもいなかった。

 

  ◇  ◇  ◇

 

音が遠い。
 地下3mを流れている水の音は、防水服、雨音、多目的自働ユニットの駆動音らに阻まれてひどく遠く、小さい。
 腰元のベルトに引っ掛けてある集音機を手に取る。全身を覆う防水服の掌部はグリップに特化したゴム由来の素材が使われ、指先は細かい作業に耐えられるよう、生地を極限まで薄く作られながらも十分な耐久性がもたらされていた。
 指し棒よろしくマイクのついた先端を伸ばし、排水管に突っ込んでいく。
 細く、深く地下へ延びる排水管の先には第三排水路がある。雨量がどんなに多くても、上限を超えない流水量を保ち、浄水場まで運んでいる。
 集音マイクが拾う水流の音がヘルメット内のスピーカーを通じて聞こえた。いつもと変わらない音。特に問題はなさそうだ。
 リズムよく歯を三回鳴らし通信のスイッチを入れる。スピーカーから一瞬ザッピングの音がしたのち、抑揚の乏しい女性の声が聞こえてきた。
————こちら本部。受信を確認しました。用件をどうぞ。
 ウィンウィンと周囲を動き回っている多目的自働ユニットたちの駆動音がうるさい。この辺で稼働しているのは旧型ばかりだ。右側の歯を強めに噛み合わせてインカムの音量を上げる。
「第三排水路の水流音の確認お願いします」
————こちら本部。用件を確認しました。排水路内センサーのデータと照合、合致。特に問題はありません。
「了解。これで本日のサポート業務を終了します」
————こちら本部。受信を確認しました。サポート業務終了を確認しました。お疲れ様でした。
 集音機を腰元に戻しながら修了確認の声を聞き、ひと息つく。
「はーい、お疲れ様でした~」
 気の抜けた労いの声を本部に残して通信を切る。業務終了時に意味のない言葉を本部に投げかける行為が、いつの間にかジンクスやおまじないのようなものとなっている。意味のないことだと分かっていても、何かしらの反応が返ってくるのではないかという期待がこの行為をやめさせてくれない。
 そのせいで、言葉を投げかけた後はつい耳をそばだててしまい、毎度雨音がやけに耳につく羽目になる。
 身をかがめて業務時間内にやるべきだった排水口の蓋閉じをする。これにて本日の業務が完了した。
 忘れ物が無いか周囲を見回す。使い終わった機材はすでにトラックに運び終えているはずで、その通り周囲は落ち葉くらいしか落ちていなかった。
 今日の現場だった4階建ての廃ビルは至るところが錆びている。屋上の給水タンクから、ボルト、扉、取っ手、手すり、排水管。ありとあらゆる金属が、雨に触れて次々と錆びて朽ちゆくその途中だ。その侵攻が定期的な手入れだけでは追い付かないことは明らかだった。しかしながら、そもそも誰も使わない、使う予定もない廃ビルの錆の手入れなんてものは、誰からも求められていない。にも関わらず定期的な手入れを行い、無意味に収音機を排水管に突っ込んでいるのは、本部からの指示通りに動けば報酬が得られるから。それだけでしかない。
 厚い防水服を身に纏ったままトラックの荷台に乗り込み、帰宅モードにする。十年物のトラックは、少しだけごねるような駆動音を立ててから走り出した。

防水服に打ちつけられる雨音が次第に弱くなり、西の空に貴重な雲の切れ間が見えはじめた。射し込んできた光の先には現実感のない青が色づいている。
一方、真上の空は灰色で、道路沿いの電柱も雨に濡れて暗い灰色をしている。都市部では電柱の地下埋め込み工事が進んでいるようで、この景観もいずれ過去のものになってしまうだろう。
(晴れ晴れとした空のもとで風を感じられたら、きっと気持ち良いのだろうな)
 曇り空を見つめながら叶わない想像をしてみたところで、この曇り空がそんなものを聞き入れることはない。
 陽の光を遮る分厚い雲が西から東へゆっくりと流れてゆく。
 あの雲ひとつひとつに数えきれないほどの雨粒があって、その全てが人類の敵になるのかと思うと、どこにも逃げ場はないのだと思い知らされる。
 不意に、大きめの水滴が眼前に飛んできた。反射的に緊張が頭から背中、全身へと駆け巡る——が、すぐに落ち着く。大丈夫、何も問題ない。
 水滴はヘルメットに行方を阻まれ、強化ガラスの表面に一つの筋を作って流れ落ちた。
 気を逸らすように思考をさっきの水滴に飛ばす。あの水滴はどこから来たのだろうか。トラックの屋根からだろうか、それとも電線からだろうか、もしくは空からだろうか。
 いつまでも慣れることのない恐怖。風と重力の悪戯によって唐突に眼前へと水滴が飛んできただけで身体が硬直する。世界の至るところに死の脅威が遍在し、それらと身体の間には厚くも心細い防水服があるだけだ。
 緩慢な動きで大の字に寝転がる。万が一の水の流入も許さない防水服は10kgの重さがある。空調機能、給水機能ハイドレーションなどがついてこの重さで済んでいるのは人類の技術力の賜物だ。
 遠くから自働ユニットの駆動音が聞こえてくる。トラックの揺れは心地良く、緩やかに午睡へと誘われる。
 トラックは走り続ける。しかしどんなに進んでも周囲に人の影はない。
 意識が微睡む中、定時放送が遠くから聞こえてくる。

————現在の天気は曇り。雲量は95%。さき六時間の降水確率は85%です。

 

  ◆  ◆  ◆

 

揺れが無くなり目が覚めた。無事家に着いたようだ。
 トラックの電源を切り、荷台から降りる。そのまま小屋型の駐車場から家へと直結する通路へと向かう。
白を基調とした通路の床に、歩くたび防水服に付着していた水滴が落ちる。小屋もこの通路も人がいなくなれば乾燥モードへ自動で切り替わり、念入りな乾燥・換気がなされる。
扉の前に立つと自動で扉が開き、家のエントランスへと進む。通路と家それぞれに繋がる出入口の二重扉が完全にロックされ、空調が静かに動き始めた。
 屋外と屋内の間に設置されている乾燥室。ここで防水服に付着した水分を完全に蒸発させる。さながら宇宙ステーションのエアロックのようだ。
 長椅子に座ると、壁に設置されている60インチモニターが点灯した。勝手に本社が製作した研修動画が流れ始める。
毎回流れるものだから嫌でも内容を覚えてしまう。今では内容のおおよそを諳んじることが出来るようになった。
いつも通りのBGMに合わせてキャッチコピーのナレーションと本社のロゴが出てくる。

  
   私には貴方が必要です。I need You. チャルター社

 第二次産業革命で仕事の自働化が確立した頃。その時代に、生物分類学で第五のドメインと認定される生物が発見されました。
  現在までに第五のドメインと認定されている唯一の生物プロボスキスは、モーリタニアでのタコの大量死を契機に発見されました。体長は1ミクロンほどで、その形状からギリシャ語で吸盤を意味するプロボスキスが命名されました。
  プロボスキスはあらゆる動物を食い荒らすとても恐ろしい生物です。一度動物の体内へ侵入すればその全てを吸食し尽くすまで止まりません。その凶暴性は人類にも牙を剥きます。プロボスキスは動物の表皮に付着すると表皮方向に先鋭化し、筋毛でかき分けながら侵入していきます。この筋毛は一部の細菌が持つ繊毛よりも太く、それぞれの筋毛が独立して動き、繊毛と比べ動作に剛性と弾性があります。言うなればタコの足と類似した構造と動きをしているのです。
  増殖スピードは十分な栄養素が与えられていれば、三~四分で三倍の数となり、成人男性であれば一時間もせずに吸い尽くされてしまいます。それはまるで人体消失マジックのように丸々消えてしまうのです。一方で、木材や金属などの無機物はほとんど吸食されることがありません。
  プロボスキスの主な生息場所は水中です。生息するための水の条件はPh2~14、水温0~70℃と幅広く、直径0.1mm以上の水滴があれば活動することが出来ます。また、水中と比較し個体数は少ないですが、空気中にもプロボスキスは存在します。空気中では、クマムシのように乾眠状態となり、その状態で空中を浮遊し、水滴に付着すると活動を再開するのです。
  つまり今現在、すべての海や川にはプロボスキスが蔓延しており、さらには雨粒にもプロボスキスが付着し活動しているのです。
  結果として、全世界の人口はアフリカを中心に壊滅的な減少に見舞われてしまいました。プロボスキスが発見された年には人口減少が半年で15億人にのぼりました。
  客観的な事実として、現在地球を支配している生物は水を味方につけた彼らなのです。

 そのような最悪な状況のなかでもいくらかの人類が救われたのは、プロボスキスが生まれる以前にほぼ全ての仕事がロボットによる自働化に成功していたことに加え、浄水技術が確立していたことにあります。
  その浄水技術を確立させたのが、水道局民営化の折に生まれた海外財閥企業の子会社であったチャルター社です。水道局民営化当初はさほど目立たなかったチャルター社の大躍進は、大胆な浄水技術の特許を得たところから始まります。
  それまで浄水場はオゾン処理や粒状活性炭ろ過を加えた高度浄水処理が基本とされていましたが、それに加えてチャルター社は煮沸処理を浄水場内で行いました。当然ながら煮沸および常温に戻す冷却処理は膨大なエネルギーや敷地が必要とされ、およそ採算が取れるものではありません。何よりそのニーズはほとんどの市民の頭の中にありませんでした。
  誰もが思いつくも誰もやらなかった煮沸処理。それをチャルター社は親元の財閥から引き入れた資金を活用して成し遂げたのです。当然ながら他社の水道料金よりも割高になってしまい、他社からの下馬評は最低なものだったそうです。しかし、「他社はしていない煮沸処理を行っている」という宣伝が思いのほか市民に響いたことに加え、プロボスキスの登場がチャルター社の地位は決定的なものになりました。99.974℃・30分以上の煮沸で死滅が確認されるや否や、プロボスキス第一波から生き延びた人々は全員チャルター社の水道を引くようになったのです。
  現在、水道のシェア率99.99%がチャルター社となり、その企業規模を拡大していきます。その中で生まれたのが、現代を象徴する仕事であるチャルター水難救助隊であります。
  チャルター水難救助隊はいまだに人が主導して機能させている唯一の職業です。その業務内容は、水道周りに限らず水に関するトラブルすべてに対応しています。
  国の機能が崩壊している現在において、チャルター水難救助隊は公共性の高いサービスとして人々の生活に密着しています。そんなチャルター水難救助隊へのアクセスナンバーは「990」です。よく覚えておきましょう。

 そんなチャルター水難救助隊が最も活躍する時が《リュウ》発生時です。
  《リュウ》とは————

 

乾燥完了の通知音が鳴るのと同時に、さっさとモニターの電源を切ってしまう。チャルター社の社宅についている乾燥室は優秀で助かる。
少し遅れて家側の二重扉のロックが解除された。
 これでようやくヘルメットを脱げる。
 約7時間ぶりにヘルメットから抜け出した頭は汗で濡れ、汗臭い。伸ばしている髪も最近はうっとおしいばかりだ。
 防水服を全て脱ぎ、身軽になる。防水服はそのまま収納ボックスにしまった。
大きく伸びをしながら姿見に目を向けると、そこにはボディスーツ姿が映っていた。体の線が露わとなり、胸のふくらみが強調される。ただ、それ以上に目を見張るのがわき腹の成長だった。
 横腹を触ると柔らかな感触が人差し指の先端を包み込む。昨日見たアニメで登場人物が太った事実に愕然としていたシーンを思い出す。
 いつの時代でも体重管理というのは関心の高いことなのかもしれない。
 だからってつらいダイエットなんてしないんだからね、と思いつきの歌を歌いながら体の向きを室内側の扉へ向けた時、何かが引っかかった。違和感。いつもと何かが違う。
 改めて周囲を見回す。違和感の正体はすぐに判明した。少し見上げたところ、扉の上部に設置されている小さなモニターだ。
 そのモニターは常時点灯しており、表示されているのはアルファベットと変動する数値だけ。違和感はその数値にあった。
 一昨日見た時はオレンジ色だった数値が2減って赤色になっている。じっと見つめていると目が痛くなってしまうほどの鮮やかな赤色だった。
 一方で、赤色の数字の上にはいつもと変わらず黒色で「MVP」と表記されている。
 MVP。耳にタコが出来るくらい何度も研修動画で出てきた単語だ。

  最小存続可能個体数Minimum Viable Population

数値が赤色に変化した意味は直感的でとても分かりやすく、その事実にため息がひとつ出た。

 

一昨日から今日にかけてのどこかのタイミングで、人類の絶滅が確定していた。

 

  ◆  ◆  ◆

 

チャルター社から支給された社宅は三階建ての一軒家で、一人で住むにはいささか広く感じる。
 モノトーンに統一された室内で数少ない色味を持っているブラウンのソファに寝転び、32インチと控えめな大きさのモニターに向かって「昨日の続きから」と言うと見途中だったドラマが再生された。
 モニターはネットと接続されており、無数のアーカイブを自由に映し出すことが出来る。最近よく見るのは日本国の映画・ドラマ・アニメだ。どれを見ていても知らない単語、物、風習が多く登場し、気になるものはその場で調べたりする。
 特に今見ているドラマは、人が銀行という通貨管理施設で働いており、その様子がとても可笑しい作品だ。通貨という概念は知っているが、一番自働化がされやすそうな施設が、まるで人の仕事の最上位であるかのように描かれている価値観がとても滑稽に見える。
 他にも、あらゆる手続きに書類が求め求められているところが、その時代の古さを強調してくれており、可笑しみを与えてくれる。一方で、会話が多過ぎてあまり話が入って来ないところがマイナスポイントだ。文字や映像を用いた方が情報の伝達効率は良いはずなのにどうしてこうも会話を主体とした情報交換をしようとするのか全く理解できない。結果、会話が多くなってくると自然と流し見になってしまう。
 いつも通り、ソファでだらしない姿勢のままドラマの会話劇を聞き流していると、「赤字」という単語が耳に飛び込んできた。
 その単語はすぐさまMVPに直結してしまった。
 人類がいずれ絶滅することは前々から分かっていたことだが、現時点で世界最年少である身としては、順調にいけば人類最後の人になる訳で。それに対して何となく貧乏くじっぽく感じている。生まれて20年、その印象が覆ることがないまま、昨日くらいに人類滅亡が確定した。
 それに対して「あぁ、本当に人類終わるのを見届けることになるのか」とため息をついてしまうのは自然な事だろう。ただそれと同時に、人類滅亡という人類史最大の事柄に対して実感を得られていないことに、そこはかとない気持ち悪さを感じてしまっている。
 そんな消化しきれない感情が思考とない交ぜになる。
「なんで生きてるんだろ……」
 漏れ出たその言葉を聞き届けてくれる人はどこにもいない。

 

  ◆  ◆  ◆

 

人類に残された貴重な時間を無駄に消費していると、ボーンと鐘が鳴って18時を教えてくれた。
 いつの間にか流れていたドラマが終わって、勝手に映画が再生されていた。出演俳優関連で選ばれた作品なのだろう。さっき見た顔の人が別の服を着ている。
 そのまま見ていると、モニターには美味しそうな魚料理が出てきた。使われている魚はきっと天然ものなのだろうと邪推する。プロボスキスによって水中生物も壊滅している世界では天然の魚というものは存在しない。
 映画を一時停止して、だらけた姿勢のまま呼ぶ。
「ペアレント」
 はいはいと言いながらペアレントはすぐやってきた。この恰幅の良い人型の汎用型家庭用ロボットとは生まれた時からの付き合いになる。
「これ作れる?」
 画面を指さすと、ペアレントはレンズを回転させ焦点を画面に合わせて対象物を観察する。
少しだけ間が空き、「作れます」と返事があった。
「じゃあ今日の夕食はこれで」
「分かりました。ちょっと待っててね」
 ペアレントは人間味の無い抑揚で返答すると、そのままキッチンへと向かって行った。
ドラマなどで繰り広げられるものとは比べ物にならない簡素なやり取り。一応、これも会話と言えるものにはなるのだろう。しかし、映像で見る人間同士の会話とは情報量の差とは別の何かが足りないように思えた。とはいえ、その感覚が正しいのかも判断がつかないのだが。

なにせ他人に一度も会ったことがないのだから。

他人。これまで見てきた多くの映画やドラマでは、昔は産みの親と子が同じ家に住み、コミュニケーションを取っていた。現在との違いは、産みの親が育てのペアレントになっただけで、実際他人とロボットにどういう優劣の差があるのかは正直分からない。
それでも、その他人に会ってみたいという気持ちがそれなりにあるのは未知への憧れなのだろう。
 ただ、他人、そんな人が本当に実在しているのか疑わしくも思う。
 MVPのモニターには現存する人の数が表示されてはいるが、それが正しいとも分からなければ、どこに住んでいるのかも分からない。少なくともこの周辺にはいないはずだ。
 もし他人に会ってみたいという願望を叶えるために行動を起こすのならば、日々死の雨が降りそそぐ中を、あてもなく旅をするということになる。換気機能が稼働する家の場所すら分からないまま決行してしまえば、行きつく先は死だ。そんなことやれる訳がない。
 以前、本部に他の社員の場所を訊いてみたことがある。

————こちら本部。受信を確認しました。用件をどうぞ。
「他の社員の居場所が知りたいのですが、教えていただけませんか」
————こちら本部。質問内容を確認しました。その質問には回答できません。
「何故ですか」
————こちら本部。質問内容を確認しました。個人情報保護の観点から社員に関する情報を他者に伝えることが禁じられています。

にべもない返事にため息をついたのを覚えている。
 いつも通信の声は抑揚の乏しい女性の声で、一応他人の可能性がある、があまりにも反応がお堅い。チューリングテストをしたら人ではないと判断されるに違いない。きっと合成音声を使ったAIか何かなのだろう。
 何かの手掛かりになるかと、一度チャルター社本社ビルの場所を調べたことがある。北米大陸の西海岸沿いにあることがすぐに分かり、同時に重役たちが拠点を密かに移動したという古いニュース記事も見つけた。しかし本社の移転先までは分からず、いくつかの陰謀論の記事が見つかっただけだった。ついでに同時期のニュース記事をいくつか読んでみたが、当時はプロボスキスの脅威に曝されていて全人類がパニックに陥っていたことが手に取るように分かった。

キッチンからいい匂いがしてきた。
 再生されている映画の音、キッチンから料理の音、家庭用タンク内で水道水を煮沸処理している音。それほど大きくない音が穏やかに体を押し潰してくる錯覚を得る。
 それに抵抗するように、ソファの上で大きく伸びをし、発声する。
「出来れば死ぬ前に他人と会ってみたいなぁ」
 口に出してみたこの思いは日々強くなっている気がする。
 ただ、同時にそれを心のどこかが否定する。その理由は明白で、それを実現する算段が一切ないからだ。
 これまで、漫然と言われたことを言われたままに意味のない仕事をひたすらやって時間と肉体と精神を浪費しているだけの人生を過ごしてきた。計画を立てることを知らず、当然計画を実行したこともない。そんな奴が、居場所も知れない存在するかも怪しい他人に会いに行くことが出来るだろうか。
 これまで何度も繰り返してきた思考は常に一つの結論を導く。
 そう、この世界で願いは何一つ叶わない。僅かに許されているのは死に囲まれながら怯えて過ごすことだけ。一生プロボスキスという絶望からは逃げられない。

(あ、これ以上はまずい)
 余計な思考を入り込ませまいと強く目を瞑る。何が悪かったのか思考がドツボに嵌っていく。
(これ以上この考えを進めるのは良くない)
 近くにあったクッションを顔に強く押し付ける。
 良くない、と認識してしまっている時点でもう手遅れであることから目を背けようと努力する。
(ダメだ。別の事を考えないと)
 閉じた視界よりも黒く深い闇が忍び寄る。
 いくら拒否しても闇は広がり、足元を飲み込む。沈んでいく。
 その錯覚が思考を狭め、鈍らせる。
 高熱にうなされている訳でもないのに、暗い光景が次々と浮かぶ。ベッドの下、靴箱の最上段、洗面台下の収納スペース。それらの場所に置いてあるのは、白くて太い丈夫な縄。
 そしてそれはすぐそこのテーブルの上にも————

手を伸ばした瞬間、けたたましい警報音が部屋中に響いた。
 そのおかげで視界に光が戻り、緊張感と空虚な安心感を得る。ペアレントは構わず料理を続けていた。
 視界がぼやけている中、モニターが映画から本部通知に切り替わっている事を確認できた。

  リュウ警報 隊員は明日午前4時よりリュウ誘導経路確保作業を開始すること

 

  ◆  ◆  ◆

 

いつもよりも空気が重たい。きっと低気圧のせいもあるが、何より緊張が体を重たくしている。
 見上げれば高さ200m弱の電波塔がある。数少ない現役の施設は日々鉄骨や部品が取り替えられて新品の輝きを維持している。錆びまみれの建造物に囲まれ、異様に浮き上がって見えるそれは近くで見てもあまり現実感を伴わない。
 強い風は、近くで稼働している多目的自働ユニットの駆動音すらかき消す勢いになっている。
 右側の歯を強めに噛み合わせてスピーカーの音量を上げたあと、歯をリズムよく三回鳴らす。
————こちら本部。受信を確認しました。用件をどうぞ。
 いつも通りの応答に四角四面の報告で応える。
「リュウ誘導経路確保作業準備完了しました」
————こちら本部。用件を確認しました。リュウ誘導経路確保作業を開始してください。
 その声を確認して、土嚢を積んだ多目的自働ユニットたちの指揮を執り始めた。

《リュウ》はその名の通り「流」であり、「龍」である。
 プロボスキスが一定水量中に一定密度に達すると集合体として機能し、明確に生物を襲いにかかる現象、それが《リュウ》だ。
 主に台風や大雨によって河川がはん濫水位に達する時、《リュウ》は発生する。
 降り注ぐ死の雨の下、より多くの生物のいる方へと水流が意志をもって侵攻していく様はさながら死をもたらす龍であり、一介の生物たちにはなす術が無い。
 人類も、その脅威に対して集団で生活することを諦め、人同士がより大きく距離を取って生活をし、襲われないことを祈ることしか出来なかった。
 リュウが多くの人を飲み込むなかで、人類はいくつかの抵抗策を打ち出す。その一つがリュウ誘導経路確保だ。
 そのシステムはシンプルで、養鶏の死骸などをいくらか混ぜた土嚢を積んで経路を作り、少しずつリュウの食欲を満たしながら、人の食用も兼ねている緊急犠牲用家畜牧場へと誘導するだけだ。あとは好きなだけ家畜を食い荒らしてもらってどうにか人だけは見逃してもらう。そんな生存確率をいくらか上げるだけの延命措置が、人類のささやかな抵抗運動として現存している。
 チャルター水難救助隊は、多目的自働ユニットにリュウ発生予想ポイントの決定と土嚢設置数の指定を行う。十分なデータ数が無い中での指示は、全て隊員個々の判断に任され、その結果は成功失敗に関わらず貴重なデータとして本部にプールされる。

降りしきる大雨がヘルメットの表面を叩き、視界を大きく遮る。
 腕、胸、腹、太腿、脛、あらゆる部位に容赦なく死が打ちつけられていく。防護服内は空調で体が冷え切ることはないが、無数の雨粒は重く冷たい。
 インカムを通じて音声入力で多目的自働ユニットへの指示を行う。
「リュウ発生予想ポイントをA134R・B26Rの二点に設定。それぞれ誘導経路はAルートを採用。始点から2㎞までに土嚢を5幅×15高で両サイドに均等配置。2㎞地点での105度カーブ地点に外縁側50mのみに土嚢2万を10幅で三角配置。第四二四号緊急犠牲用家畜牧場まではルートに沿って両サイドに土嚢を3幅×10高で配置。以上」
 無数の多目的自働ユニットが行動を開始する。その一体一体に動きの差が出ており、この視界の悪い中でも、錆が目立つ機体の動きが鈍いことが見て取れる。
 リュウ発生予想ポイントは近くを流れる一級河川支流の二地点とした。プロボスキスが現れる前、その支流はとても細く穏やかな河川で護岸工事もなされていなかったが、ひとたびリュウが発生すると、その川幅川底を一気に拡張し、一級河川規模の大支流となった。
 そのため、護岸工事は追い付かず、洪水が起こるたびにその形が変わり、更に護岸工事が遅れるという負のスパイラルが現在まで続いている。無策の支流でもある。

周囲の木々が雨風で枝先を揺らし、水滴を落としている。
「リュウ誘導経路確保作業指示完了。巡回開始します」
————こちら本部。受信を確認しました。土嚢の配置が過去の事例と比較し中央値からだいぶ離れていますがこのままでよろしいですか?
 珍しく本部から質問された。
 確かに今回指示した土嚢の数は過去の事例と比較しても二倍ほど多い。データ数が少ないとはいえ、比較的小規模の被害で済んだ事例に似せた対応を取るのがセオリーとなっている現在において、その質問は非常に妥当なものだった。
 土嚢を増やすことがプロボスキスの食欲を満たしてリュウを抑えることに繋がる可能性がある一方でリュウを活性化させてしまう危険もある。数少ない人類が少しでも長く生き永らえようとするならば、前例を踏襲するのがベストだ。そんなことは分かっている。
 それでも、これでいくと決めた。
「このままで問題ありません」
————……こちら本部。返答を確認しました。では今回のリュウ誘導経路確保事例を特殊警戒事例に再設定し、巡回時間を2時間から1時間に変更します。
「了解しました」
 たった二言でひどく乾いた口をハイドレーションで潤す。ホースを通して流れてくるこの水は浄水場と自宅それぞれで30分以上の煮沸がなされた命の水だ。目の前で落下している死の水との違いは、プロボスキスがいるかどうかだけでしかない。
 口腔内を潤し、意味のない巡回業務へと頭を切り替える。
 辺りは水溜まりだらけで、歩を進めるたびに右足が、左足が、その水面を破り数ミリ先の水底を叩く。
 果たしてその一歩でどれだけのプロボスキスを踏み殺せているのか。光学顕微鏡で捉えた画像でしか見知らぬ悪魔をリアルに想像すると、たかが一歩に含まれる軽率な生物の殺戮と能動的な死への接近を実感し、足の先から竦みが昇ってくる。
 大雨の中、数少ない水溜まりの出来ていない地面を選んで立ち止まる。多目的自働ユニットたちはただひたすらに課されたタスクをこなしていく。当然指示者へは目もくれない。
 それはまるでここには誰一人として人は存在していないかのように。
 それはまるでここには誰一人として人が必要ではないかのように。
 その様子をただ眺めているさまは、手持無沙汰という言葉がぴたりと当てはまる。
 その空いた手を使い、防水服越しに雨粒を掌に貯めてみる。やはり見た目は家で使っている水と何一つ変わらない。
 目に見えない違いが命を左右させていることを知ってはいるが、ふとした時に分からなくなる。今、生と死はたった数ミリの隔たりしかない。それらがなくなれば一瞬で混ざりあい、死に染められる。そんな状況、普通ならまともでいられない。
 それでも何とか正気を保っていられるのは、現実感を薄れさせてくれる防水服のおかげだろう。くぐもる環境音と見通しの悪い灰色の視界、外界へ届かない触覚と及ばない嗅覚。一歩踏み出すことすら億劫になる重みと強張りが体を覆い、やあ走ろうだなんて考えたくもない。そんな何をするにも不自由を極める防水服が心身両方の命綱となっている。
 そしてそんな10kgの命綱だけで、生命を賭けた環境に身を投げる狂行を繰り返している理由は、そんなものでも無ければ残されるものが室内での停滞のみになってしまうからだなのだろう。
 認め難いが、プロボスキスへの小さな抵抗運動だけが人類に残されたやりがいだという事実は、惨め以外の何物でもない。

「命の水が命を救い死の雨が死をもたらすのさ~」
 思い付きで口ずさんでみた歌は、調子の悪いリズムと定まらない音程で非常に不安定だったが、それでも歌い続けた。それは、敢えて身を揺らしてバランスを保つ綱渡りのような、そんな行為に思えた。
 
 通信を繋いだままにしている本部からは何の反応もない。

 

  ◆  ◆  ◆

 

本部から指示された巡回時間1時間が経過した。
 その間はただ歩き、多目的自働ユニットが働くのをただ見るだけだった。
 雨は次第に激しさを増している。視界の左上、ヘルメットのガラス面に沿って表示されている河川の水位情報は氾濫警戒水位に達しそうであることを教えてくれている。
 本部からの通信が入る。
————こちら本部。只今の時間をもって巡回業務を終了とします。お疲れ様でした。
 無機質な通告。これにて本日のお役目は終了したことになる。
「はい、お疲れ様でした~」
 そう言いつつ、通信を切らなかった。今日はまだ用事がある。
 今日で最後かもしれないから。やろうと思っていたことを全てやっておくのだ。
 意を決し、喉を震わせる。
「本部、応答願います」
————こちら本部。受信を確認しました。用件をどうぞ。
 変わらぬ応答。変わっているのはこちらの心持ちだけだ。
「質問があります」
 ゆっくりと二度、深呼吸をした。改めて口を開く。
「本部は、この応答は、人が務めているのでしょうか」
 沈黙が、雨音を際立たせる。
 勝手に訊いてはいけないと思っていた質問。業務上一切必要のない質問。
 今更こんなことを訊いても何の意味もない。答えは分かりきっている。期待もしていない。それでも質問したのは、ただの自己満足でけじめで区切りだ。

これで思い残すことは無くなる。

————こちら本部。質問を確認しました。それは、業務上必要な質問でしょうか。
「……はい」
 生まれてはじめて嘘をついた。今まで、そんなことは必要なかったから。
————こちら本部。返答を確認しました。具体的に、どのように必要なのでしょうか。
「精神上、今後後顧の憂いなく業務に取り組むために必要な質問です」
 真実を織り交ぜた嘘が一番見抜かれにくい。ドラマから学んだことがこんなところで生かされるとは思ってもみなかった。
————こちら本部。返答を確認しました。質問にお答えします。
 乾いた唇を舌で濡らす。喉が鳴る。足先が冷たい。鼓動がうるさい。
————はい。今応答している私は人間です。
 あまりにもそっけない返答だった。
「……えっ」
 思考が停止した。言われた言葉を反芻し理解した。

次の瞬間、脳で何かが弾けた。黄、緑、赤、紫、オレンジ。火花のような、激しい何かが頭の中を駆け巡る。新たな何かに接続した衝撃のような、鮮やかな煌めきで頭をガンガンと殴られている感覚。
 え、今、「私は人間です」って言ったんだよね……?
————何か不都合でも。
 期待していたけど期待していなかった返答に混乱してしまっている。いや、興奮しているのか? 何だ。何だこれ。
「いえ……いや、予想通りというか、予想が願望に飲み込まれた結果の予想の通りというか……あまりにも都合が良すぎというかあっけなさすぎて驚いているというか……」
 顔が熱くなっているのが分かる。熱を帯び、どこにもなかったはずの活力が溢れてくる。
 何故、今までこんなに簡単な質問をしてこなかったのかという後悔は、湧き上がる感動で一瞬にしてかき消されていく。
————質問は以上でしょうか。
 相手の声は変わらない。本当に、本当に他人なのだろうか?
「い、いえ……まだ……」
 鼓動の音が頭を埋め尽くす。激しく、早い。
 何か、何を訊けば良い? 会話とは? 質問って何を?
 どうにか思考が麻痺している事だけは自覚出来ている。どうすれば。これを逃したらもう二度と話せないかもしれない。でも一体何を。どうすれば。一体。
 混乱している頭から弾き出されたのは、これまで嫌というほど聞かされてきたフレーズだった。
「I need You」
————…………え?
 スピーカー越しに困惑がありありと伝わってきた。
「いや、えっと、その……」
 困惑しているのはこちらも同じで、何故そんなことを言ってしまったのかよく分からない。いや、そんなことはどうでもいい。何かフォローしないと。
————それは、チャルター社の標語ですね。
 先に本部の人が応答した。それ以外ないだろう応答。
「そ、そうですね」
 浮ついた相槌だけが口を突いた。焦りが心臓を叩く。まずい。何か。何かを。
————それがなにか。
 何も言わなきゃ完全に終わってしまう。消え去ってしまう。
 それだけは避けたいという焦燥が勝手に口を回した。
「あの……昨日だか、一昨日だか分かりませんが……MVPが赤く表示されて。人類の絶滅が決まって……それで何かプツンと糸が切れた感じで。今までもそうだったんですけど、本当に生きている意味がよく分からなくなって、昨日の夜も死んじゃおうかななんて思ったりしちゃって。それが良くないことは分かるんですけど、でも悪いって困るって悲しいって誰も言ってくれる訳でもないんだから別にいいんじゃないかなとか思ったりして……。そんな時にちょうどリュウ警報が来て、誘導経路なんて作ったところでここら辺に住んでいる人なんていないのに何でこんなことするんだろうとか思いながら朝早く起きて準備して大雨の中立ってみたら、「あ、このまま死んでいいな」とか思えて。それでせっかくならって土嚢の数を増やした場合のデータを置き土産にしようと思って。それでついでにリュウが暴れてそれに飲み込まれて死ねば良いかなとか思っちゃったりしてたんですけど。というか願望として死ぬ前に他人と会ってみたいっていうのがあって、でもそんな他人に会える算段なんかないし願望なんてあってもしょうがないなと思ってたんですけど、でも今こうやって他人と話せたことが想像以上に嬉しくって。というかまだ会話ってほどのことが出来ている訳でもないと思うんですけど、それでも嬉しくて。だから、また会話出来るなら生きてても良いのかなとか今思ってたりするんですけど、いやこれは脅しとか要望とかではなくて……って訳でもないのか。要望です。これからも少しでも良いからお話して欲しいなとか思っていて、出来れば直接会いたいとも思っていて、でもなんで今までまともに会話がされていなかったのかっていうことを考えるとそれも厳しいのかもなとか思ったりしてるんですけど……あの……」
「なんで今まで会話しなかったんですか?」
 取り留めのない言葉が次々と口から出てきた。これまでの人生で一度もなかった他人への言葉の投げかけ。これが良い投げかけ方ではないのは分かっている。あれだけドラマやアニメを見てきて知っているはずなのに、急に実践に投げ込まれてもうまく出来る訳がなかった。
————…………。
 本部の人も黙ってしまっている。もしかしたらもう二度と応答してくれないかもしれない。
 それが怖い。
 急に降って湧いたとびきりのプレゼントが蜃気楼のように消えてなくなる。さっき感じた色彩が永遠に失われる。そんなことになったら、本当にもう生きてはいけない。大袈裟でなくそう思った。
————本部対応マニュアルにはこうあります。
 何となく、心なしか本部の人の声がいつもより堅い気がした。
————社員へは業務上の指示および質問への回答以外はしてはならない。その理由は以下の通りである。
————一、余計な交流による情報漏えいを防ぐため
————二、社員が本部への依存度を高め、業務への支障が出る可能性があるため
————三、社員が本部への異動を求める可能性があるため
————特に三に関しては、本部の運営上、上限を超える人員を収容することが出来ず、異動が却下された場合の当該社員の生きる気力を大きく損なわせてしまうことになる。
————以上より、社員との交流は厳に慎まなければならない。
————こう、マニュアルには記載されてあります。
 声が途切れ、多目的自働ユニットの駆動音が耳に入ってきた。手先が冷たくなっていることに気付いた。大粒の雨がずっと降っていることを思い出した。
 現実が戻ってきた。
「そう、ですか……」
 振り絞った声は小さく、本部まで届いたか分からない。
 そりゃそうだ。チャルター社は、こういう状況になることを想定していたのだ。
 感情は比較が生み出す。昨日よりも仕事が楽だったから嬉しい。さっき見た作品よりも面白かったから楽しい。先週食べたご飯の方が美味しかったとメニューのチョイスを後悔する。
 孤独であることは当然自覚していた。しかし、そこに何の感情も無かった。ただの一度も他人と交流をしたことが無かったから。孤独が良いものとも悪いものとも判断がついていなかったから。
 でも、今はもう違う。
 何も知らない相手だろうと、交流することに喜びがあった。もっと交流したいという欲が生まれた。孤独は悲しいものとなり、避けたいものになってしまった。
 常に悲しい状況に身を置かねばならないのなら、それは地獄だ。
 死と直面せず感じる地獄を初めて知った。
  I need You.
 その言葉が、重く圧し掛かる。
 そうか。こんなにも人は人を求めてしまうのか。だからドラマやアニメはあんなにも人と人の交流に溢れていたのか。
 知らなくて良いことを知ってしまった。これなら何も知らないままの方が良かった。
 心象は変わっても、世界は変わらない。雲は世界を覆い、雨は落ち、水は流れ、木々は揺らぐ。時は進んでいく。その事実が、今とても寂しく感じる。
————……しかし、
 呆然としているさなか、静かな声がヘルメット内に響いた。
————現在の人類の生存状況は、マニュアルが作成された当初想定されていたものから大きく逸脱していることも事実としてあります。
————そのため、一時的な増員であれば十分な給与の支給と居住の確保が可能であると判断します。
 その言葉を一拍遅れて理解する。心が振動し始める。
「それって……」
————もし貴方が異動希望を持っているのであれば、一年間の期限付きでの本部への異動が可能です。
「本当に? 大丈夫なの?」
————本部の中の一部門でしかない私の独断になりますが、その程度なら許容範囲でしょう……いいえ。本当は許可云々の話ではないのです。
 心持ちのせいか、本部の人の声がとても和らいでいるように聞こえる。
————何より、私自身が前々から貴方に来て欲しいと願っていたのです。
 一体何の冗談だろう。業務上のやり取りしかしていない、声しか知らない相手にそんなことを思える要素がどこにあったというのか。
「な、なんで……?」
 震える声は弱々しく小さかった。
 それでも、相手は反応してくれた。少し恥ずかしそうに。
————私は貴方が投げかけてくれていた何気ない言葉たちをとても好ましく思っていたのです。
 視界が歪む。勝手に奥歯が噛み締まる。通信のノイズが大きくなってしまうがそんなことはどうでもよかった。
 届いていた。言葉も願いもこの世界では何一つ届かないものだと思っていた。それがこの世界の摂理だと決めつけていた。でも、違った。この世で孤独に自己満足だと言い聞かせながら独り吐き出していた声が、思いが、届いて最高の反応が今ここに得られたのだ。
 暗闇に大輪の花が咲き乱れる。雨にも、絶望にも負けない一瞬の煌めきが心に火を灯し、熱くさせる。胸が苦しく、心地良い。
「ありがとう……」
 それが今伝えられる精一杯だった。目も鼻も、体中が熱い。
————こちらこそありがとうございます。私は今、不思議と心が温かく感じています。きっとこれは良いことなのでしょう。貴方には感謝しかありません。
「いや、そんなことないです、全然……」
————そんなことあります。だって、
————勇気ある一歩を踏み出したのは間違いなく貴方なのですから。
 今貰った言葉たちを、いつまでも噛み締めていたいと心から思った。

突如、警告音が耳を貫いた。続いて彼女のひっ迫した声が響く。
 先ほどまでの感動が冷や水を浴びせられたように急速に引いていく。
————危険です! 急いでその場から逃げてください! リュウが発生しあなたのいるポイントまで迫ってきています! リュウの推定全長は……
 ヘルメット内で鳴り続ける警告音と彼女の声。それだけでキャパオーバーなはずの聴覚は、その外側から伝わってくる轟音を冷静に受け止めていた。

現実が囁いてくる。
 今立っているここは死の世界。絶望だけが揺蕩い、全てを飲み込む。
 一度目を瞑り、開く。不思議と冷静だ。ゆっくりと振り返る。
 真っすぐ伸びている道路の先から大量の水が迫ってきているのを見た。
 リュウを視認してしまった。その時点でもう逃げられない。そう何度も学んだ。

初めて生で見るリュウは想像の何倍も大きく、速く、そしておぞましかった。
 その輪郭はどこを切り取っても揺らいでいる。次の瞬間には霧散して形なんて保っていられなさそうにしか見えない。それなのにとても強固で明瞭で、それでいて美しく、恐ろしいものにも見えた。ただの水で、プロボスキスが気まぐれに集団となっているだけのものが、何故こうもはっきりとした輪郭をもっているのだろう。

そこまでだった。
 その思考時間で推定500mを駆け抜けてきたリュウは防水服を着た人一人を飲み込んだ。
 強く地面に叩きつけられ強制的に空気が吐き出される。変な音がどこからか聞こえて脳に痛みが伝達された。目を開ける気力はない。体が恐ろしい速度で回転し、上も下も分からないままどこかへと流されてゆく。
 何かが体全体を締め付けてきた。足が締まる。腕が捻じれそうになる。胴体が圧迫される。
キツイ。キツイ。痛い。痛い。痛い。痛。 痛。  痛。
 耳が遠くなる感覚とともに視覚触覚嗅覚も急速に失われていくのが分かった。全てが暗くなる。
 突如、体の中心から浮遊感が湧いてきた。直感する。
 あ、だめだ。

————ダメッ!!
 耳元で、大きな声が、聞こえ、た、気が、し、

 

  ◆  ◆  ◆

 

————……い
 何かが聞こえる。
————……さい
 声だ。
————応答してくださいっ!

痛みを自覚した。体の至るところから痛みが走る。
 うつ伏せになっているようで、ヘルメット越しに草と地面が見える。
「    」
 声を出したつもりが声にならなかった。力を入れた瞬間右の脇腹に強い痛みを覚える。
 どうにか起き上がって辺りを見渡すとそこは緊急犠牲用家畜牧場だった。普段入ることのないドーム状の施設は、端から端までで300mある。その広大な空間は寒々しく、大量にいたはずの家畜たちが一頭もいなかった。全てリュウに飲み込まれてしまったのだろう。
 入口らしき方向を見遣ると、あったはずの扉が無くなり、代わりにリュウの脅威が象られていた。壁はひしゃげ、鉄骨が飛び出ている。その中心、外へと続く空間だけがポッカリと浮かんでいるように見える。その激しさと冷たさに、今更ながら背筋が凍った。
 のろのろと外へと向かう。歩くたび脇腹に衝撃が走り、嫌な汗が滲んでくる。
 ようやく出れた外の景色はやけに朗らかに見えた。いつの間にか雨は止んでいたようだ。
(助かったんだ……)
 死んだと思った。いや、もとは死ぬつもりだったのだからそれでよかったはずだった。でも、あの質問で全てがひっくり返った。リュウに飲み込まれた瞬間、死にたくないと心の底から思えた。
(なんだかすごい体験をしてしまった)
 えへえへと、今まで一度も出たことのない笑いが出てきてしまう。なんだろう、よく分からない。でも、今ならなんだって出来てしまう気がする。

ザザ……
 通信機のザッピングの音が聞こえてハッとする。
「本部! 本部! 応答願います!」
 さっきまで出なかった声がはっきり大きく発声出来た。
 ノイズだけがヘルメット内に響く。通信機器の故障か、それとも何か別の……。
 嫌な想像が駆け巡る。
————…………ズッ
 何かが聴こえた。
「……もしかして、泣いてる?」
 もしそうならこの通信の先にまだ彼女が居るということだ。そうであって欲しいという願望が生み出した幻聴とは思いたくない。
————……あい、すみません。
 弱々しい声が聴こえ、全身の力が抜けた。思わず座り込んでしまう。
「よかった……ごめんなさい、心配かけて」
————……ズッ、いえ、生きててよかったです。本当に。死んじゃうんじゃないかと……
「いや、うん……フフッ」
————……え? な、なんで笑ってるんですか?
「ごめんなさい、でも、今まであんなにお堅い喋り方だったのに今はすごく可愛い感じになってるから、なんだかおかしくて」
————そんなの、お仕事だからちゃんとしてただけで、今は本当に力が抜けちゃったっていうか……もう、本当に心配したんですからね?
「うん、ありがとう。ごめんなさい」
 その言葉を最後に、沈黙が流れる。でも、嫌じゃない。会話していないのに何かが通じ合っているような気分になって、心地よく感じる。
 ふと、気になったことを訊いてみる。
「ねぇ、本部って同僚の人と一緒に仕事してたりするの?」
————いえ、一人で業務をしています。同僚とは一度も会ったことがありません。
「え、じゃあずっと一人で暮らして仕事してるの?
————はい。でもそれはあなたもそうですよね?
「あ、うん、そうだけど。本部は本部同士で連絡取り合ったりしてるのかと思ったから」
————そういうやり取りもないですね。地域で担当が分かれて業務にあたっていると聞いていますが、実際に他の地域担当の業務が今もいるのか機能しているのかは関知していません。
「そうなんだ。じゃあ、私が黙って本部に転がり込んでも誰も分からないってことだよね?」
————そうなりますね。でも、
「分かってる。規則上、業務に支障が出るからって許されないんでしょ。だから異動も一年間の期限付きにした」
————はい、そうです。すみません。
 何となく、彼女の事が分かってきた気がする。とても真面目で、これまで従ってきた規則を大切にしているんだ。ずっとしてきたこと、守ってきたことを変えるという発想がなくて、もし思いついても変わるのが怖くて出来ない。その気持ちがとてもよく分かる。昨日までそうだったから。
 だったら、ルールの穴を突けば良いだけだ。
「んじゃ、この仕事辞めるよ」
————え?
「この仕事辞める。前々から思ってたんだけど、この仕事ってきついしやってる意味なくない? だってこの辺に住んでる人なんていないのに、わざわざ効率悪い人の手でちまちま仕事して。そんなの多目的自働ユニットにやらせておけばいいだけじゃん。しかも今日なんて死にかけたんだし。命をかけてまでやる仕事なんてないでしょ。だから辞めるの。こんなクソみたいな会社辞めてやるんだ!」
 きっと今までも頭の片隅で考えていたことがようやく言葉になった。他人と交流して、死にかけて、ようやく言葉に出来てその気持ちになれた。
 一つ、何かの殻を破れたみたいで、今とても清々しい。
————すみません、もし会社を辞めるとしたら、異動希望も出せなくなって本部の場所を教えられなくなってしまいますよ?
 頭が堅い彼女はまだ分かってない。でもそれもしょうがない。きっと昔のドラマなんて見た事ないのだろうから。そう思うとなんだかちょっとだけ誇らしい気分になる。
「知らない? 会社を辞める時は「退職願」って書類を本部の人に直接渡さないといけないの。だから本部に行かなきゃいけない。あなたに直接退職願を渡しに行かないといけないの」
————そうなんですか? ……しばらくお待ちください。
 切れていない通信の向こう側から、席を立つ音、何かを動かす音、置く音、何か紙をめくっているような音、色んな音が次々に聴こえてくる。その音から彼女が何をしているのか想像するととても楽しく、愛おしい気持ちになった。
 少しして、キャスターが動く音と着席するような音が聴こえてきた。
————お待たせしました。たしかに、手続きに関する業務マニュアルの退職という項目にそのような記述がありました。
「でしょ?」
 そう言うと、通信機の向こうであなたが少し微笑んだ気がした。
————もしあなたがチャルター社を辞めたいということでしたら、あなたに本部まで来てもらわないといけませんね。
 何かが、確実に動き始めた。それはきっととても楽しいもので、生きる気力になるものなのだ。

————それではお伝えいたします。チャルター社本部第4支部の場所は————

 

  ◇  ◇  ◇

 

大の字のまま防水服のヘルメットすら取らずにボーっと青空をみつめる。
 見渡す限り雲ひとつない空。そのどこにも敵はいなくて、プロボスキスから逃げるのがこんなにも簡単だったとは思ってもみなかった。
 ゆっくりと立ち上がり、おそるおそるヘルメットを脱ぐ。
 冷たい空気が頬を撫で、通り過ぎてゆく。
 そうか。これが外の空気、外の風なんだ。
 吹きすさぶ風はとても冷たく強い。耳がすぐに冷たくなって感覚がなくなりそうだ。
 それでもこの風を感じていたい。そう思えるほど外の風は気持ちよかった。
 甲板から身を乗り出す。
 眼下には一面氷が敷き詰められ、船首から割れ目が拡がり、ところどころ海面が見えている。
 考えてみれば、とても簡単なことだった。
 プロボスキスが住む水の条件は0~70℃。つまり氷点下の場所にはいないという事だ。
 アニメや映画で見た景色が目の前に広がる。アニメの登場人物たちはとても苦労してここまで辿り着いていたが、今はここに来るのにお金も必要なければ人の力も必要ない。ただ望めばあとは全て自動でここまで運んできてくれる。
 船が氷の大地を破り、進む。何度も何度も氷に立ち向かい少しずつ目的地へと近づいていく。
 それは同時にプロボスキスの驚異から遠のいているということだ。逃げていると言えばそうなるが、気持ちは間違いなく進んでいて、闘っている。プロボスキスに勝てる訳ではないが、より前向きな、負けない戦術を選べたという自信がある。

船が完全に停止し、タラップが下りる。
 先んじて多目的自働ユニットたちが食料や生活必需品を船から運び出していく。
 その光景を眺めながら、一歩一歩タラップを降りていく。
 段々と白の大地が近づいてくる。
 最後の一段。一度立ち止まって、両足を揃えた。
 両膝を深く曲げ、思い切りジャンプした。
 着いた感触は固かった。けど、今まで踏みしめていたアスファルトとは全然違う感触だった。
 見渡す限りの氷の大地に、上は見上げる限りの青空で、とても現実のものとは思えない。
 でも網膜に焼き付くこの輝きは本物で、吹き付ける風は間違いなく五感を刺激している。
「着いた……」
 GPSで確認した方向を見つめる。まだ何も見えていない。でも。
 この先に、あなたがいる。
 辿り着くには、まだヘリコプターに乗り、車に乗り、歩く必要がある。
 けど、そんなのは大したことではない。
 もうすぐ叶わないと思っていた願いが叶うのだ。そして、あなたにもその喜びを知ってもらいたい。

 I need You.

チャルター社がこの言葉を標語にしたのは、人類の絶滅が現実的になってからのことだそうだ。
「あなたが必要です」
 たとえそれが単なる労働力だったとしても、求められることそれが、人間が生きていく上で必要不可欠なものであると当時のCEOが考えたのだそうだ。
 たしかにチャルター社から求められていなければ、とっくに自死を選んでいたかもしれない。
そして、その仕事を指示してくれていたのがあなただった。
 なら、あなたは誰からか求められていたのだろうか。
 求めるばかりで、生きる意味を与えるばかりで、あなた自身の生きる意味はどこからか得られていたのだろうか。
 余計なお世話なのかもしれないが、それでもあなたに直接、心を込めて伝えたい。

 I need You.
 
 右足を前に出し、白い大地を踏みしめる。一歩、そしてもう一歩。確実に近づいていく。
 それだけで胸が高鳴り心は踊る。あなたに会う瞬間を想像するだけで顔がほころぶ。
 会った時、あなたはどんな顔をしてくれるだろうか。退職願を受け取ってくれた後、二人でどんなことをしようか。
 幸せを踏みしめながら、あの日あなたに告げ、胸に刻んだ言葉を繰り返す。
 

わたしは あなたに あいにゆく

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