梗 概
緑一色
そう遠くない未来、気候変動と災害により、科学技術は保てた
が人口は減る。労働力として類人猿の身体能力及び知能を高めて
使役する案が出る。反対もあったが、代案もないため、それと同
時に人間の教育をより洗練させ、人口があまり伸びずとも文明が
維持できる体制を固めていく。
計画が軌道に乗り人口も微増した頃、能力を高められた類人猿
(BNA Blue Neck Ape)は、危険を伴ったり肉体的な力のみを
要求されたりする労働力として扱われ、感情や生殖能力は制御されていた。
災害による汚染物処理場に新任の分析技師として日系の山口が
着任した。両親がともに研究職である山口にとって、BNAは馴
染みが薄いものであった。故に自分の意識するところ以上にBNA
に関心を持ち、観察していく。
山口の想像以上にBNAの待遇はよかった。休日等は、人間の
下級労働者よりもやや少ない程度であり、衣食住も質素ではある
が生命の維持には充分な質のものが与えられている。その感想を
監督長である初老の女性、オーバーホッファに告げると、長期的
な視点に立てば効率がいいとの返答があった。
慣れて時間的な余裕が出来たので、山口は監視室に行って実際
の労働の様子を見てみる。既に作業を終えたBNA数体が何かを
拾って持ち込もうとしている。監視員と現場に赴き、持ち込もう
としたものを確認する。色の付いたガラスか、陶器片のようなも
のだった。持ち込もうとした理由を尋ねると、「きれいだから」
だった。その場は没収し毒性がないことを確認、オーバーホッファ
に許可を得たうえでBNAに返却。以降、気になるものを発見し
た場合、毒性の分析に出した上でBNAの「共有物」としてよし、
となる。
以後、持ち帰ったものを本来の用途と異なる使い方をして騒動
を起こすといったことはあるものの、人間に被害が出る事故は発
生しなかった。人間職員にも興味を持って共有物を見に行く者が
出た。監督長が姿を見せる。珍しく個人的な対話に応じ、元々は
BNAの開発や研究に携わっていたと明かす。
BNAの拾いものの中に十個ほどの麻雀牌があった。持ち帰った
理由は「模様が面白かったから」。山口はとくに気にとめずにこ
れまでと同じように処理。
BNAの休憩室に行くと、数体が紙切れや棒に記号を書いて牌
に加え、ゲームをしていた。牌は別のゲームの道具だから、一式
揃えてルールを教えようかと提案する。すると
「これはわたし達の楽しみ。人間の楽しみとは違う」と答えた。
山口は彼らのルールを尋ね、ともにゲームをする。
監督長に報告すると、
「特殊な単体か、種族の持つ能力の復活か。いずれにしろ、双方
にとってオール・グリーンであることを祈ろう」
とオーバーホッファは呟いた。
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内容に関するアピール
課題が「旬」ということでしたが、自分
の範囲外のハードサイエンスの「旬」でな
く、ソフトサイエンスに題材を求めました。
やや勢いは衰えたといわれますが、ブラ
ウザゲーム『刀剣乱舞』が日本刀界隈に活
気を取り戻した、という話を耳にして「社
会的にマイノリティとされる集団がハイ・
カルチャーを取り戻す」大枠をまず作り
ました。
なにか所謂「SF」らしさを含められない
かと異種族などの設定を考え、劣るとされ
てそれが受け入れられるなら異種族よりも
労働力として作った人工生命体だろうとい
う思惑で類人猿の機能強化にしました。
「偉大なる白人のご主人様」は避けること
を頭に置いて物語を作り、冷静な種族の観
察者として監督長を配しました。
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