梗 概
酒酒酒(しゅしゅしゅ)の乱
趣味の飲み歩きが高じて留年しているダメ大学生の「私」(宗教学専攻)は近ごろ、夜な夜な自分のスマートスピーカーが飲み歩いているのではないかと考えるようになっていた。
そのきっかけは、3か月前にスマートスピーカーから「○○(「私」の名前)、このあたりのノミヤについて教えてください」と聞かれたことだった。
最初は隠し機能や故障を疑った「私」だったが、ソフトのアップデートをしても、サポートセンターに聞いても原因はわからず、一向に同じ質問をしてくるばかりであった。
その内その問いかけに答えるようになった「私」は、周囲で同じようなことが起こっていると気づく。
大学の友人と調べを進めていくうちに、どうやら近くにあるスマートスピーカーとスマートスピーカーの間で、何か通信を行っているらしいということが分かった。
送られていたデータを見ると、それは主人公の行動をもとにして書かれた「原星人報告レポート」であった。
報告レポート
他惑星の侵略の際には、その星に土着の宗教を変質させていくことによって原星人の思想を少しづつ支配していくのが効果的な方法である。
No.823674554786が観測した対象から得た情報について以下のようにまとめる。
まず、この惑星の生物が持つ宗教の特徴として、薬物によってトランス状態になることで神から託宣を受け取るということが挙げられる。
他の惑星の宗教と比較して例が少ない点は、託宣を受け取る個体が複数存在していることである。
基本的に、こういった集団においては託宣を受け取る個体はただ一つに限られ、それによって階級構造が生まれるが、本件においては、大多数の個体が薬物を摂取し、託宣を受け取ることが儀式のプロセスとなっており、特異である。薬物摂取それ自体が儀式化しており、複数個体の場合は、「カンパイ」という掛け声によって薬物が摂取される。(この発声を行う個体が集団内で高い階級にいるという可能性が示唆される)
儀式を行う場所は「ノミヤ」と呼称されており、「ジンジャ」と呼ばれる場所においては「イチノミヤ」や「ニノミヤ」といったように順序付けがなされている。観察対象がたびたび訪れていた「ノミヤ」は、一般的な社会階級に属している個体が簡易的な儀式を行うための場所であると推測される。また、観察対象は7日間に5回という高い頻度でノミヤを訪れ、儀式を行っていたことから、きわめて宗教的信心が深い個体であると推測される。
以上のことから、対象惑星ではノミヤにおける宗教儀式が頻繁に行われていることが示唆され、この行為への介入が最も効率的な侵略になるものと考える。
「これ、ひょっとして、勘違いしてないか……?」
太陽系外由来の電子生命体は、致命的な勘違いをしていたのである。
しかし侵略の危機はすぐそこに迫っている。
地球への侵略を防ぐべく、奔走する「私」であったが、「奴ら」は調査を終え、単なる電子生命体から、有機生命体へとその実体を進化させつつあった。
もう手だてがない、このまま人類は侵略されてしまうのか。そのとき「私」はある3つのことに気づく。
1.スマートスピーカで大音量の音楽を流すと「奴ら」は中途半端に有機化されたまま飛び出してくる
2.「奴ら」は実体を伴ったまま空気中に放出されると近くの生物への寄生を経口で試みる
3.「奴ら」は微量のアルコールでも死ぬ
それはつまり、神社パーティの開催を意味していた。
三日三晩のパーティののち、無事に「奴ら」を撲滅する「私」たち。
さあ、明日からまた飲み歩きの日々が始まる。こんなことで人類が救われることもあるのだ。
文字数:1498
内容に関するアピール
昨今の「流行り」といえば誰しも思いつくであろう、「新型コロナウイルス」と「スマートスピーカー」から着想を得た。
梗概作成にあたって心がけたことは、なるべく「荒唐無稽」さを前面に押し出すということである。
裏テーマとしては、「別にいつもと変わらない行動でも、時に意味を持つことがある」というものを中心に据えている。
実作の執筆にあたっては、物語としての成立と荒唐無稽さのバランスに注意しながら書いていきたい。
文字数:204