梗 概
膨張性超々炭水化物
今はこれがモテるんだって。
そう言い張って、丸丸と膨れた腹を出したファッションを貫くコウジを内心馬鹿にしていたが、彼女ができたと聞くとタカシにも焦りが生まれてきた。
昔はデブ専なんていってニッチなジャンルだった時代もあったが、今では膨れた腹こそが美の象徴だ。
タカシは今まで腹だしなんてありえないと主張してきたが、それはせいぜい小太りとしか言えない自分の腹を人様の目にさらすことに内心おびえていたからだ。
しかし、幼いころからの悪友に彼女ができたとなるといよいよなりふり構っていられない。
焦りを隠せないタカシにコウジは勝者の余裕で彼女の知り合いも誘って来月海に行こうと言ってきた。
これがラストチャンスだ。この1ヶ月で俺は見事太って見せる。
決意を固めたタカシだったが流石に肉体改造系の整形手術に手を出すほどのお金はない。
なけなしのバイト代をはたいて異次元輸入食品「膨張性超々炭水化物 オメガ米(ワカメフエール理論により三次元下での質量保存法則を無視した異次元高カロリーを約束。これであなたも理想の真円形爆弾ボディに。3種類の味が入って大特価1パック12,000円)」を購入し、理想のボディを手に入れるべくデブ活を始めるのだった。
オメガ米の効果はすぐに表れた。小太りだった腹は1週間もしないうちに膨れ始めあっという間に肉割れ線が腹に走る。
予想以上の効果に喜ぶタカシだったが、それは同時に地獄の戦いだった。オメガ米は異次元から観測不能エネルギーを吸収し、体内でエネルギー放射することで少量ながらも高カロリーを摂取することを可能にした極限下での携帯用食品のため茶碗1杯食べると3日は腹が減らない。もちろん、毎日食べ続けることで美ボディを作ることが目的であるから苦しくても食べることをやめるわけにはいかなかった。増え続ける腹囲だけがタカシの心の支えだった。
3週間ほどたち、約束の日が近づいてきたが、腹回りはタカシの思ったほどの伸びを見せなかった。
タカシの腹はコウジのそれと比較するとやはり貧相としか言えないものだった。
追い詰められたタカシのとった最後の方法は、「鬼膨張を約束!」と銘打たれたネットの眉唾情報を信じてのオメガ米一気食いだった。
過剰摂取したオメガ米のエネルギー放射に数日間苦しみ、そして約束の日。
そこにはまん丸とした美ボディを体得したタカシがいた。
自慢のボディをひっさげ海に繰り出したタカシはおなじくふくよかな女性と楽しく過ごす。
夕暮れ、いよいよキメようとしたその時、腹部に滞留していたオメガ米が急激なエネルギー放射を始める。規定量を守らず無理をした代償にタカシの体は際限なく膨張し続け、天を貫き星になりなんやかんやあってブラックホールになった。
全てを飲み込む大食漢になったタカシを背景に警告文が浮かぶ。
「美しくなることだけがすべてですか?過剰な食品摂取は控えましょう」健康推進協会。
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