梗 概
ふじの子
超毒性細菌「クルナ」が蔓延、その爆発的な感染力により人類は絶滅の危機に瀕する。
しかし富士の樹海で発見されたきのこを定期摂取することで毒性を抑えられることがわかり、人類はクルナに勝利した。
きのこは発見場所を由来として「ふじ」と名付けられ、クルナの抑制効果とその栄養価からあらたな人類の主食となった。
人類は、「ふじ」の安定供給のためクルナへの対抗策として始まった行動管理社会を継続することを選んだ。
行動管理社会の継続に一役買ったのは、感染したクルナが発するとされる信号である。
信号は本人の生活様式、思想、活動等によって個別の信号となるとされ、個人特定が容易になった(身体的特徴は外科手術の発展により個人特定に用いることが難しくなった)。
信号検知が定期的に行われることで、犯罪の未然防止や、個人特定の簡易化による社会インフラの進歩といった恩恵が生まれた。
一方、不安定さが欠けた世界は進歩性を失い爆発的な技術革命もないまま何十年も怠惰な、しかし平和な日々を歩むことになった。
そんな世界で生きる会社員トウジは、日常に飽きていた。毎日食べるふじ、代わり映えのしない通勤風景。必要性の感じない業務。
ある日、トウジは通勤中に知り合ったアサヒという人物から「他人と人生を入れ替えないか」と誘いを受ける。定期的に行われている信号チェックを取り換え、別人になるというのだ。
トウジは承諾し、小金持ちと人生の入れ替えに成功する。
しかし、入れ替え後の人生も、期待していたような面白さはなく少し裕福なったように見える生活があるだけで鬱屈した気持ちは晴れなかった。
トウジは定期的に供給される「ふじ」という命綱が自分を縛るものに見え、ふじを摂取しない生活、管理から外れた生活を求めることに躍起になる。
しかしその方法は見つからなかった。
資金も底をつき行き詰ったトウジのもとに再度アサヒが現れ、管理から逃れる方法として今度は社会そのものからの蒸発を手伝うと持ち掛けてくる。
アサヒの手引きで蒸発に成功したトウジは「ふじ」に始まる社会インフラを一切利用できなくなったが不便さより管理から外れた喜びのほうが勝っていた。
誰でもなくなったトウジはオートロック一つあけることができない。
不便なところとなった都会から離れたトウジの足は、知ってか知らずか富士の樹海に向かっていた。
富士の樹海では、トウジのように蒸発した人間が沢山いた。
「ふじ」は摂取した生き物が一定の年齢まで成熟すると、脳内で「ふじ」の摂取をやめるよう信号を出し、苗床まで誘導し成長させるためのあらたな餌とするのだった。
当然、国もそのことを認知していたが、人口爆発を防ぐためのサイクルとしてこれを取り入れていたのである。アサヒや入れ替わった小金持ちも国の役人だった。
トウジは自分が管理から外れようと考えたことすら、他人の定めたものとは気づかずに樹海にその身をうずめるのであった。
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内容に関するアピール
旬のネタ、今一番悩まされているというとやはりコロナかなと思い、感染症と管理社会を題材にしました。
コロナに限らず、ここ10年前後たびたび大災害が起きてますが、普段享受している自由とはいとも簡単に吹き飛ぶものなんだなと感じます。
しかし、同時に普段目が届いていない、見ようとしていない管理されているからこその喜びもあるなと、普段の生活を顧みる機会でもあると持っています。
この話でも、管理されることを自由を阻害する悪と書くのではなく、プラスの側面というか喜びも見出せるような書き方をしていきたいと思っています。
あとは、個人的な趣味ですが主人公がいい感じにボコボコになる話に仕上げたいと思っています。
文字数:295