梗 概
この中に犯人と座敷童がいる
鞠子が生まれ育った島には、座敷童の伝説があった。
子どもが集まって遊んでいると、いつのまにか一人増えている。顔を見比べてもひとりも知らない顔がなく、ひとりも同じ顔がない。誰が増えたのか、皆「自分ではない」と言い張る。こういうのが座敷童である。
その島は過疎が進み、十年前から無人島になっている。
十八歳になった鞠子は、ばらばらに移住した幼友達のグループと十年ぶりに再会するため、島で休みを過ごしにやってきた。村で一番大きな家を借り四泊五日の計画だ。島には定期便はなく、電波も通じない。行き帰りは知り合いに船で送ってもらう。
島で過ごす一日目の夜、五人の幼馴染は、十年ぶりに島の思い出話や昔話に花咲かす。
鞠子は少し居心地が悪い。幹事の一人として屋敷を借りる手配をしたのは鞠子だったが、狭い島ではいじめがたえなかった。鞠子もいじめられた側だった。
その場で座敷童の由来についての話が出る。座敷童とは殺された子供が変化したものだそうだ。昔まだこの島で人口が多かった時、口減らしのために殺した子供を家の土間に埋めた。その子供が家についているのだという。
二日目の朝、皆が目覚めると家の土間で人が死んでいた。
そこに集まってきた若者は五人。死体が一つ。
この島に渡ったのは五人のはず。一人増えているのだ。
しかし、生きている五人に見知らぬ顔はない。死体も仲間の一人。誰が座敷童か犯人か、主張しあうがらちがあかない。
三日目の朝、また死体が一つ増えている。
やはり生きている者は五人。死体は昨日のとあわせて二つ。
四日目の朝、五日目の朝も死体が一つずつ増える。
やはり生きている者は五人。死体は合計四つ。
五日目の午後、生きている皆で話し合う。鞠子は「この中に犯人と座敷童がいる」という前提で話そうとするが、他の皆は口ぐちに、犯人はおらず、死体はすべて座敷童だと言う。遠い昔に殺された座敷童がその死の状況を再現しているのだという。
実は鞠子は犯人だった。子供の頃に自分をいじめた四人をこの島に集めて殺し、自殺するつもりだった。一晩に一人ずつ殺していった記憶もある。
鞠子は、全てが座敷童だなんて不可解だし、座敷童は一つの屋敷にたくさんはいないと主張する。しかし、皆「実際に五人が九人になった以上は四人以上が座敷童であることは確かだ」と言う。
鞠子は自分が殺した四人がすべて座敷童だとしたら困る。ついに自分が殺したのだと告白するが、皆も「自分にも人を殺した記憶がある」と言い、鞠子の記憶は座敷童に操られているのだという。
皆、「座敷童には動機がある」という。埋められた自分の骨を掘り出してほしいのだろうというのだ。
鞠子たち五人は屋敷の土間を掘る。すると、四つの骨が壺に入れて埋められている。座敷童を弔うため、五人でその骨四体と、仲間に見える死体四体を裏山に埋め、墓を作り、そのまま島の船着き場にゆく。
船に乗ってしばらくしたとき、船頭が人数が足りないと言い出す。あたりを見回すと、船に乗っているのは鞠子一人だけだった。
四人は座敷童だったのだ。
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内容に関するアピール
増える、と言ったらクローズドサークル内の死体。
ミステリ風のホラーみたいな雰囲気を目指したいと思います。
実作を書くときは、五日目の午後から始めるということも考えています。
一日目、二日目、三日目と書いていくと、他の仲間の名前や特徴をぼやかすわけにもいかず、誰が座敷童かわかってしまうからです。「この中には犯人と座敷童がいる…」という、鞠子が状況を整理して言う一文から始めようかと思っています。
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